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『一粒の米』

 むがしむがし、あるどこさ、暮らし向ぎのいぐねぇ爺さまと婆さま住んでだったっけど。
 水飲み百姓でな、なんぼ働いでも働いでも、とんと、暮らし向ぎ、いぐなんねがったど。
 百姓はよ、春がら秋まで百もある仕事を一生懸命で稼いで、んで、取っちゃ米ば地主さまさ納めで、残った米で細々ど暮らさんなねなんよ。
 爺さまも婆さまも年取ってはぁ、それはそれは難儀なごどだったけど。
 大寒の寒めぇ、かんじる夜に爺さま雪隠さ行ったんど。
 ほしたら、雪隠さ、米一粒落ぢったったけど。
「おおこりゃ、勿体ねぇ、勿体ねぇ」
て、拾って食ったど。
 その晩、爺さまは恵比寿様ど大黒様、踊りおどってだ夢見だもんだがら、
「婆さま、婆さま、俺らぁ夕べ(ゆんべ)、いい夢見だなよ」
て、爺さま、婆さまさしゃべって聞がせだど。
 婆さまは、
「ほんじゃ、きっと、いい事あんなでねぇがなあ、爺さま」
て、二人でしゃべってだったど。
 ほうして、その翌年ぁよ、日照り続ぎで、米取んねくって、みな困ってだっけど。
 ほだげんどもなぁ、
爺さまも婆さまも、なんでが、安泰に暮らさっちゃごんだど。
 飯(まま)こぼして拾って食わねど、穀菩薩様の罰当だって、目潰っちぇ見えねぐなる、て昔がら言わっちゃもんだ。
 ほだがらな、米どいう物は、どさあるにしても、一粒どいえど粗末にさんねもんだ。
とーびんと。

山形弁訳

『一粒の米』
 むかしむかし、あるところに、暮らし向きの良くない爺さまと婆さまが住んでいたんだと。
  水飲み百姓で、いくら働いても、とんと、暮らし向きが良くならなかったんだと。
  百姓はよ、春から秋まで百もある仕事を一生懸命に稼いで、それで、取れた米を、地主さまに納めて、残った米で細々と暮らさなければならないのよ。
  爺さまも婆さまも年取って、それはそれは難儀なことだったと。
  大寒の寒い、寒い夜に爺さま雪隠に行ったんだと。
 そしたら、雪隠に、米が一粒落ちていたんだと。
「おおこりゃ、勿体ない、勿体ない」
って拾って食べたと。
その晩、爺さまは恵比寿様と大黒様が、踊りをおどっている夢を見たものだから、
「婆さま、婆さま、俺ぁ夕べ、いい夢見たなよ」
って、爺さま、婆さまにしゃべって聞かせたんだと。
婆さまは、
「それじゃあ、きっと、いい事あるんじゃないかなぁ、爺さま」
って二人でしゃべったんだと。
  そして、その翌年は、日照り続きで、米取れなくて、みんな困ってたっけど。
  だけれども、
爺さまも婆さまも、なんでか、安泰に暮らされたんだと。

  飯こぼして拾って食わないと、穀菩薩様の罰当たって、目が潰れて見えなくなる、って昔から言われたものだ。

  だからな、米という物は、どこにあるにしても、一粒といえど粗末にされないもんだ。
とーびんと。