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『あこや姫』

 昔むがし、伝えによっと、千三百年以上も昔のごど、千歳山の麓さ、あこや姫っていう詩や琴のじょんだ姫がいだっけんだど。
  ある夜、あこや姫が琴を弾いったらば、どっからが笛の音が聞こえできて、ほして、一人の男が近づいで来たんだど。
「私は、名取の左衛門太郎ていう者です。あなたの琴の音に惹がっちぇ来ました」
  それがらというもの、あこや姫が琴を弾き始めると、次の夜もその次の夜も男がきて、一緒に笛を吹くようになったんだど。
  ほして、二人は夫婦の契りを結ぶ仲になったんだど。
  んだげんど、秋も深ぐなったある晩に現れた男は、沈んだ表情で、言ったんだど。
「実は、私は千歳山の老松です。私は明日、流さっちゃ名取川の橋材どして切り倒されるごどになったんです。んだがら、もうこごさは来れなぐなりました」
と言って、姿が消えでしまったんだど。
  左衛門太郎が言ったとおり、村では、名取川の大橋が洪水で流さっちぇ、代わりの大木が見つかんねもんだがら、老松が切られっこどになったんだど。
  村人らが老松どご切り倒して、老松を運ぶがど思っても、びくともしねがったんだど。
  んだげんど、あこや姫が嘆ぎながらも老松のそばに来て、切らっちゃ老松さ手かげだらば、今までびくともしねがったなが嘘みでに動きだしたんだど。
  途中で、あこや姫と老木は最後の別れをささやぎあって、老松は無事名取川の岸まで運ばっちゃんだど。
  それがら後、あこや姫は、老松が切られた場所さ若松を植えで、万松寺を建でで菩提を弔ったんだど。
  この松が、あこやの松と呼ばれるようになって、あこや姫と老松が最後の別れをささやぎあった峠をささや峠と呼ぶようになったんだど。
  どーびんと。

山形弁訳

『あこや姫』
 昔むかし、伝えによると、千三百年以上も昔のこと、千歳山の麓に、あこや姫という詩や琴の上手な姫がいたんだと。
 ある夜、あこや姫が琴を弾いていたら、どこかからか笛の音が聞こえてきて、そして、一人の男が近づいてきたんだと。
「私は、名取の左衛門太郎という者です。あなたの琴の音に惹かれて来ました」
 それからというもの、あこや姫が琴を弾き始めると、次の夜もその次の夜も男が来て、一緒に笛を吹くようになったんだと。
 そして、二人は夫婦の契りを結ぶ仲になったんだと。
 だけども、秋も深くなったある晩に現れた男は、沈んだ表情で、言ったんだと。
「実は、私は千歳山の老松です。私は明日、流された名取川の橋材として切り倒されることになったんです。ですから、もうここには来れなくなりました」
と言って姿が消えてしまったんだと。
 左衛門太郎が言ったとおり、村では、名取川の大橋が洪水で流されて、代わりの大木が見つからないものだから、老松が切られることになったんだと。
 村人たちが老松を切り倒して、老松を運ぼうとしても、びくともしなかったんだと。
 けれど、あこや姫が嘆きながらも老松のそばに来て、切られた老松に手をかけたら、今までびくともしなかったのが嘘のように動き出したんだと。
 それから後、あこや姫は、老松が切られた場所に若松を植えて、万松寺を建てて菩提を弔ったんだと。
 この松が、あこやの松と呼ばれるようになって、あこや姫と老松が最後の別れを囁き合った峠を笹谷峠と呼ぶようになったんだと。
  どーびんと。