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『蟻と蜂の拾いもの』

 むかしなぁ、蜂と蟻、散歩に行ったど。
 ずうっと行ったれば、道端さニシン一匹落ったけずも。
「あっ」て、わらわら蜂がいって、
「かいつぁ、おれの物だべした」
「なしてや、一緒に居たもの、分けて食せんなねべした」なて言うたら、
「ほだげんど、むかしから<ニ・シ・ガ・ハチ>ていう、蜂のもんだべした」
して、蜂食ったなだげど。
 ほうして、向かう行ったらば、こんど、鯛一匹落っだんだけど。
ほうしたらわらわら行って、蟻コ、そいつぎちっと捕まえで、
「こいつぁ、おれのもんだ、おれのもんだ」
「何だ、おれ、ニシン食ったて、お前、こんな大きな鯛、一匹、お前ばりして、
取らんねべした」
「ほだて、むかしから言うべ、アリガタイ、アリガタイて、
鯛は蟻のもんだべした」て、言うたけど。
どーびんと。

山形弁訳

『蟻と蜂の拾いもの』
 むかしなぁ、蟻と蜂が散歩にいったんだと。
 ずうっと行ったら、道端にニシンが一匹落ちていたんだと。
「あっ」って急いで蜂がいって、
「こいつは、おれの物だ。」
「何でだ、一緒に居るんだから、分けて食べさせくれないと。」なんて言ったら、
「でも、むかしから<ニ・シ・ガ・ハチ>っていう、蜂の物だろう。」
そして、蜂は食べたんだと。
 そして、向こうに行ったら、今度は、鯛が一匹落ちていたんだと。
 そしたら急いで蟻が行って、蟻コが鯛をぎちっと捕まえて、
「こいつは、おれの物だ、おれの物だ。」
「何だ、おれ、ニシン食べたって、お前、こんな大きな鯛、一匹、お前だけで取ったらだめだろう。」
「でも、むかしから言うだろ、アリガタイ、アリガタイて、鯛は蟻の物だ。」
て言ったんだと。
どーびんと。