『貧乏の神』
むがあしむがあし、とんと昔のごどだ。
ある処さ、親父とおっかぁ居だっけど。
その人達ぁ、とんと働ぎ者でよ、朝げ早ぐがら夜遅ぐまで働ぐ人で、酒も飲まねで、煙草も吸わねで、銭いっぺたまってだっけど。
そごの家の天井さは、貧乏の神いだっけど。
ほだげんどもなぁ、そごの家の親父どおっかぁ、あんまり働ぐもんだがら、その家さ、居らんにぇぐなっかったんだど。
ほうして年越しの晩、貧乏の神は、
「あーん、あーん」
って泣いったけど。家の人達は、
「なんだえ天井で誰が泣ぐ音すんなぁ、誰だべ、こげな夜中によ」
行ってみだれば、貧乏の神だったんだど。
「貧乏の神貧乏の神、なしてそがいに泣いったなだ」
って聞いでみだらば、貧乏の神は、
「あーん、あーん。俺よ、こごの家さいづまでも厄介になっていっちぇんだげんども、お前様達ぁ、あんまり働ぐもんだがら、俺ぁ出で行がんなねぐなったなよ、じぎいに福の神ぁ来て、俺ぼたされんなよ。ほだげんど、俺ぁどごさも行ぐどごねくて泣いったんだ」
それを聞いだ親父とおっかは、
「何だ。もごさいごど。このまま居でけろ、福の神来ただって追っ払って呉っがらよ」
って言って、貧乏の神ぁ喜んで、
「いがったいがった。ほんじゃ俺さ飯一杯御馳走してけろ。飯食(か)ねど腹さ力はいんねくて」
と赤い魚で飯一杯食ったど。
そうしたどごろぁ、
「とんとん」
と戸叩いで福の神ぁ来たんだど。
「貧乏の神貧乏神、こごの家はお前の居るどごでねぇ、どさでもいいがら早ぐ出で行げ」
って言ってどんどん入って来たなだっけど。
貧乏の神は、これは大変だぁ、って一生懸命おっつけだっけど。負げそうになったら、、親父どおっかも貧乏の神に助太刀して、福の神どごおっつけでやったど。
福の神は、
「あーあ、これはかなわね」
って逃げでったど。
あんまり急いで逃げだもんだがら、打ち出の小槌という物落どして行ってしまったっけどはぁ。
打ち出の小槌ってなはな、
「米出ろ」
って言うど米。
「金出ろ」
って言うど金。
なんでもいっぺ出すもんだっけど。
貧乏の神ぁ、
「これぁ、いい物置いでって呉っちゃ」
って喜んで、喜んで、
「米出ろ、金出ろ、米出ろ金出ろ」
って言ったもんだがら、家の中じゅう米ど金だらけになってしまったっけどはぁ。
ほうして貧乏の神は福の神になって、そごの家は益々繁盛して、親父どおっかぁは、楽々暮らしたっけど。
ほだがらなぁ、見かけや名前だげで、良し悪しはきめらんにぇもんなんだど。
とーびんと。