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『人柱』

 むがあしむがあし、
 とんと昔のごどだげんどなぁ、
 ある村さ荒れ狂う川あって、なんぼ橋かげでも、荒れで荒れで、いっつも流さっちぇしまうんだど。
 村の衆は困ってはぁ、集り合いして話したんだど。
「なじょしたら、いがんべなぁ」
て考えっけんども、いい知恵浮がばねがったど。
 そうしたらば、ある男がよ、
「人柱でも立でっと、いいあんばいに静まってけんじゃあんめがなぁ」
て言ったそうだ。
「ほんじゃ、誰が人柱になる・・・」
と言うたげんども、誰も人柱になる人ぁ、いねがったど。そうしたらば、
「そなたが口出ししたなだがら、語った人が人柱になんなねごでぇ」
て言わっちぇ、その男は、泣ぐ泣ぐ人柱に立でらっちぇ、川さ入れられで、死んでしまったど。
 そうして、何年か後のごどだぁ、その男の家で、川向こうの家がら嫁もらったごんだど。
 その嫁は、返事はすんなだげんど、決して喋べんね嫁だったんだど。
「なんにも喋んね嫁にいでもらっても、楽しみもねげれば、おもしゃぐもね」
て言われて、親元さ返されるごどになって、人柱の橋まで、来たんだど。
 そんどぎ、キジが飛んできて、橋の上でケンケンケンケンて鳴いだもんだがら、狩人に見つかって、キジは打だれでしまったんだど。
それを見た嫁は、

 口故えに、みのの川原の人柱
 キジも鳴かずば、打たるることなかりけり

と言ったそうだ。
そうしたらば、
「決して余計なごど言わねで、こんなごど考えった嫁は、めったに居るもんじゃね、
親元さなど返さんにぇ」
と無口をほめらっちぇ、家さ戻ったど。

 人柱ど言わねば死ぬごどもねがったべし、
 キジも鳴がねば打だれるごどねがったべし、

ほだがらなぁ、口は災いの元だがら、余計なごどじゃ決して言うもんじゃねえなだど。

 どーびんと。

山形弁訳

『人柱』
 むかしむかし、
  とんと昔のことだけれども、
  ある村に荒れ狂う川があって、どんなに橋をかけても、荒れて荒れて、いつも流されてしまうんだと。
 村の衆は困ってしまって、集り合いして話をしたんだと。
「どうしたらいいだろうか」
て考えるけれども、いい知恵が浮かばなかった。
  そうしたら、ある男が、
「人柱でも立てると、いいあんばいに静まってくれるんじゃあないかなぁ」
て言ったそうな。
「それじゃぁ、誰が人柱になる・・・」
と言ったけれども、誰も人柱になる人ぁ、いなかったんだと。そうしたらば、
「そなたが口にしたんだから、語った人が人柱にならなきゃなんないだろう」
て言われて、その男は、泣く泣く人柱に立てられて、川に入れられて、死んでしまったんだと。
  そして、何年か後のこと、その男の家で、川向こうの家から嫁をもらったんだと。
  その嫁は、返事はするんだけれども、決して喋らない嫁だったんだと。
「何も喋らない嫁に居てもらっても、楽しみもなければ、おもしろくもない」
て言われて親元に返されることになって、人柱の橋まで、来たんだと。
  そのとき、キジが飛んできて、橋の上でケンケンケンケンて鳴いたものだから、狩人に見つかって、キジは打たれてしまったんだと。
それを見た嫁は、

  口故に、みのの川原の人柱
  キジも鳴かずば、打たるることなかりけり

と言ったそうだ。
そうしたら、
「決して余計なことは言わずに、こんなことを考えている嫁は、めったに居るものじゃあない、親元になんて返せない」
と無口を褒められて、家に戻ったそうな。

  人柱と言わなければ
  死ぬこともなかただろうし、
  キジも鳴かなければ
  打たれることなかっただろうし、

だからな、口は災いの元だから、決して余計なことは言うものじゃないんだと。

  どーびんと。