『稲のはじまり』
ずうっとむがしのごどだど。
人が稲など見だごどねえどぎに、お稲荷様のお使いで、狐ぁ唐の国さ行って、
「稲どいうなの穂貰ってこい、穂どいうなは稲の種だがら、そいづどご大事に貰ってこいよ」て。
ほうして唐の国さ狐、お使いに行ったなよ。
狐は唐の国がら、その穂っていうな一本貰ってきて、
お稲荷さまんどさ行ぐどしたらば、人に見つかったんだど。
「狐ぁなんかくわえできた。あれなんだべな」
って、人みんながら狐ぁおっかげらっちゃども。
狐ぁ一生懸命走ったそうだげんども、
口さ穂くわえだまんまなもんだがら、
口あがんにぇし、口あがんにぇど息もさんにぇもんだがら、
沼のどさ来たどぎに、一本の穂どご沼の泥の中さ隠して、
ちかぐの葭(よし)一本くわえで切って、その先さ泥付けで、
目印に立ででがら、お稲荷様んどごさ帰ったど。
ほうして、
「人に追っかけらっちぇ、穂貰ってきたんだげんど、こごまで持ってこらんにぇがったがら、途中さ隠しったがら、一緒に行って探しておごやんねが」
て、お稲荷様さ頼んだど。
お稲荷様ど狐で沼の端まで行ってみだらば、さごって、いっぱい実なってだったど。
「はぁ、これが稲っていうもんだな、こりゃ」
お稲荷様、
「よぐ戻ってきた。お前、よぐこごさ目印の葭棒一本立ででったな」
今では、苗代こしゃった時、苗実の竹だて、真中さ葭棒一本、ちょこんと立でだものがよ。そいづのなごりで立でであったもんだど。
とーびんと。