『蛙の恩返し』
むかしむかしよ、ある村の若衆が、
「はて、田ンぼさ行ってみっかな」なて、鎌一つ持って、ずうっと田ンぼさ行ったずも。
ほうしたら、ある岡に、蛇ぁ蛙くわえで、いまにも呑むどこであったでずも。
「いや、蛇よ、蛇よ、何でも獲って食うのは仕方ねげどもよ、いや、
おれ見つけだ以上はぁ、蛙にも親いっどか、子いっどかて、いろいろあんべがらよ、まず、おれ見つけだなだから、我慢して放して呉(け)ねが」どかて、蛇さたのんだど。
ほうしたら、蛇はうらめしいようにして、若衆の顔見っだけぁ、
「エッ、エッ、エッ」て、蛙どこ吐き出して、草やぶさ、ぐうっと入って行ったずも。
「いや、おしょうしな、蛇さん。蛙よ、お前も、こんなどさ来てっど、また蛇ぁ出てくっどわりがら、早く、お前の住家さ帰っていげはぁ」
たば、川の中さ、ビタランビタランと入って行ったけど。
ほうして一日稼いで若衆ぁ家さ帰って行った。
ほして、晩方んなったば、トントン、トントンて戸叩ぐ。
「こんばんわ、こんばんわ」なて。
「はてな、おら家さなの、めったな女、用あってくるわけねえげんどもな」
なて、して、戸開けて見だらば、きれいな女立っていだけずも。
「あの、おれ、旅の者だげんど、おれどこおかたにしてもらわんねべか」
「いや、おれ、おかた欲しくてはいだげんど、おれのおかたなて、
ほんに、なて呉んなだべが」
「いや、どうか、おれも一人者だから、おかたにしておぐやい」て頼んだど。
「ほんじゃ、おかたになっどええごで」て。
ほうしておかたになって、一生懸命稼ぐこどだけど。しばらくおもったらば、
「あの、お兄さんよ、おれ、ちょっと家さ行って法事して来んなねもんだから、
暇呉っじぇおくやい」
「おかしいもんだな。一人身だなて来たなだげんど、家さ行って法事するなて、おかしいごと語る・・・。んだごでなぁ、何かあんべちゃな、ほんじゃ行って来んだ」
ほうして出て行ったて。
「ほんなおがしいな、ようし、おれぁ跡つげてって、調べて見っか」
ほして、姉さまの跡、若衆ぁついて行ったずも。
ずうっと行ったらば、お寺の脇道通って、お寺のうしろの沢の方まで行った。そこさ池あっけど、ほうして行ったらば、姉さまの体見えねぐなってしまったんだど。
池の端立ってみっだらば、池のふぢさ蛙があっちこっち浮いできて、
ガエロガエロ、ガエロガエロて鳴いっだけずも。
そのうち、合図のようにして、水の中からぐるりから蛙はいっぱい出はってきて、中の大きな蓮の葉っぱの上さなど大きな十匹ばり整っていたけずも。
ほしてゲロゲロ、ゲロゲロ、いや、やかましいほど鳴きはじめたけずも。
「いや、やがましいごとなぁ」なて、石拾って池の中さドブンと打投げだずも。
ほうしたらば、蛙はピターッと鳴くのを止めて、
池の中さスパーッとみな入って行ってしまった。
それから若衆、わらわら家かえってきていだらば、晩方になって、姉さま帰って来たけど。「ただいま」なて。
ほうしたれば、頭さ包帯などしてんなだど。「なえだて、おかしぇもんだな。
何か途中で痛くでもしたべか、何したごんだ」
「いや、申し訳ないげんど、おれは、おれの本当の本性見らって、
お前のおかたになってだげんども、今日、家さ帰って法事しったどこさ、
お前に来らっで、石投げらっじゃもんだから、まず、本性みらっじゃもんだから、おかたになっていらんねもんだからよ、こんでお別れだ」
て、ほうして蛙の姿になって、ビダラ、ビダラて帰ってしまったけどはぁ。
蛙だても、人でも、忘せねで、恩返しするもんだから、人間なんて、小いとのごんでも、大きくして返すもんだけど。
どんびんと。