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『金持ちと貧乏人』

  むがしむがし、
あるどごさ、働ぎ者の男ど、金持ぢの男いだったど。
働ぎ者の男は、毎日毎日町さ出で、ほんまち(金)とりして、鼻うだ歌って、おもしぇぐ暮らしったったど。
一方金持ぢの男は、「この金、泥棒に入られっちぇ、盗まれっとわりがら、なじょしたらいがんべなぁ」
なて、寝でも覚めでも心配で心配ではぁ、しがめっ面で暮らしったったど。
ある時、ほんまち取りしった男のどごさ行って、
「何んでそんなにおもしぇぐ暮らされんなが、聞ぎにきたなだ。毎日うだ歌って、おもしゃそうに暮らしてんなは、金いっぺ溜まったがらなんが・・・」
って聞いだど。
「金などたまんね、おら、まめにかしぇぐど、食うに困んねし、買物もでぎる。かしぇぐごどは、おもしぇごどだがらよ」
って教しぇらっちゃど。
「ほんじゃ俺、金いっぺあっから、お前どさ分げでやる」
って働ぎ者の男さ半分呉(け)っちゃど。
ほうして、金持ぢになったらはぁ心配で心配で、誰がにとられんであんめが、戸棚さしまったらいいべが、それとも神棚さいいべが、穴掘って、土の中さ埋めだらいいべが、なて思案して、うだ歌うどごろでねぐなってしまってはぁ、しがめっ面になってしまったんだど。
「こげなごどなら、さっぱりおもしゃぐね、金なていらね」
って言って、金返してきたんだど。
ほしたら、心配ごどねぐなってはぁ、又鼻うだ歌っておもしぇぐ暮らさっちゃど。
  ほだがらなぁ、金なてねくたって、達者で働げるごどぐらい幸せなごどはねえもんだど。
 とーびんと。

山形弁訳

『金持ちと貧乏人』
むかしむかし、
あるところに、働き者の男と金持ちの男がいました。
働き者の男は、毎日毎日町に出て、お金を稼いで、鼻歌を歌いながら、楽しく暮らしていたんだと。
一方、金持ちの男は、
「この金、泥棒に入られて、盗まれるといけない、どうしたらいいだろうなぁ」
なんて、寝ても覚めても心配で心配で、しかめっ面で暮らしていたんだと。
  ある時、働き者の男のところに行って、
「どうしてそんなに楽しく暮らせるのか、聞きにきたんだ。毎日うた歌って、楽しそうに暮らしているのは、お金がたくさん溜まったからなのか・・・」
って聞いたんだと。
「お金なんて溜まってないけど、おれ、マメに働くと食うに困らないし、買物もできる。働くことは楽しいことだからよ」
って教えられたんだと。
「それじゃあ俺、お金たくさんあるから、お前に分けてやる」
って働き者の男に半分あげたんだと。
そうして、金持ちになったら、心配で心配で、誰かに盗られるんではないだろうか、戸棚にしまったらいいんだろうか、それとも神棚がいいんだろうか、穴を掘って、土の中に埋めたらいいんだろうか、なんて思案して、歌を歌うどころではなくなってしまって、しかめっ面になってしまったんだと。
「こんなことなら、さっぱり楽しくないから、お金なんていらない」
って言って、お金返してきたんだと。
ほしたら、心配事がなくなって、また鼻歌を歌いながら楽しく暮らせたんだと。
  だからなぁ、お金なんてなくたって、元気で心配事もなく働けることくらい幸せなことはないもんなんだと。 
  とーびんと。