『空巣』
むがしむがし、ある村のおっきい木の下で、二人の若者が、木の上さある鳥の巣のごどで、口喧嘩しったったんだど。
「俺、いっつも見ったげんど、あの巣は、むく鳥の巣だ」
「いやいや、俺も毎日見ったげんど、あの巣は山鳩の巣だ。間違いね」
って喧嘩しったんだっけど。
そごさ、村の和尚様が通りがかった。村一番の学者で、知恵者の和尚様さ、二人は、
「和尚様和尚様、この木の上の鳥の巣は、むく鳥の巣だべっし」
「いや、ほんね、俺ぁ山鳩の巣だど思うなよっし」
と二人が言うど、和尚様は、
「ありゃぁカラスだ」
と、おしぇだんだと。
二人は、カラスの巣だって言わっちゃど思って、カラスの巣でねぇって、ひのずつっていだっけど、
和尚様は、
「んじゃ、どっちが登って見できたらいいんねが」
と言わっちぇ、一人の若者が木さ登って、巣の中、見さ行って、
「何もいねなぁ」
って言ったらば、和尚様は、
「ほだがら、空巣だど言ったべ、俺はカラスの巣だどは言わねがったぞ。
今の時期は、親鳥も雛鳥もいねなだ。よぐわがんねごどは、人の話も聞がねで、我通すもんでねぇぞ」
と、よっくど若者さおしぇだんだと。
とーびんと。