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『笠地蔵』

 むがしなぁ、じいさん、ばあさん、あんまり裕福でねくて、まず、明日、お正月の、今晩年取りのうめもの買う銭もねえなだずも。
「じいさん、じいさんよ、おら家で売ってだ笠で、何とかお正月とか年取りの準備さんなねべなぁ」
なて、ばあさんに言わっちゃもんだがら、じいさんは笠一階たがって、【一階ざあ五つ】んで、町さ出て、
「笠いらねが、笠いらねが」
て、町、大きな音立てで売っけんども、年取りのいそがし時、いまごろ皆準備しったべし、笠なて買う人、誰もいねなだと。
「仕様がねな、こりゃ。まず、売んねもの仕様がねごで、まず、何もねくて、ばばど二人で年越すしか、ねぇごではぁ」
なて、ずうっと途中来たら、いっつも通っけんど、あんまり気付がね、地蔵さまの前通った。
「地蔵さま、地蔵さま、また今年も雪チラチラ落ぢで来たし、何ぼがさめべがら、まず、この笠でもかぶって、温かい年取りして、正月迎えておくやいはぁ」
なて、じさま、笠束ねっだな切って、一つずつ、ずうっとかぶせで、一人さ足りねぐなったど。
「はて困ったな。仕様がね、今朝取り換えだばっかりだがら、褌(ふんどし)で悪れげんども、地蔵さま、褌かぶって呉ろな」
 褌とってかぶせで来たなだけど。
「ばさま、ばさま、町さよ、笠売りに行ったげんども、誰も買う人いねもんだがら、途中地蔵さまいだっけもんだがら、あんまり、もござそうだがら、温かい正月迎えでもらうように、地蔵さまさ笠かぶせで来た。ほうして一人の地蔵さま、われげんども、ばさま取り換えで呉っじゃ、おれの褌かぶせで来たなよはぁ」
「あらら、そがえな褌なて、罰当だんねがそ」
なて、
「二人で、仕様がねがら、お湯でも沸がして、熱い味噌お湯でも飲んではぁ、温ったまって寝んべはぁ」
 ほうして、二人で床さ入って寝だ。
 ほうしたら、
エンコサラモンサラ
 ドッコイショ
エンコサラモンサラ
 ドッコイショ
ていう音すんなだど。
「はぁて、何だべなぁ」
 ほうしたらば、家の前さ来て、ドサンと音したど。
「いや、さっき、笠かぶせて呉だの、こっちの家のじさまだな。じさま、ばさま、明日ええ正月迎えで呉ろよ。ほりゃ、うまいもの持って来たし、餅も持って来たし、いっぱい持ってきたからなぁ」
 ほうして、戸開げて見たらば、その褌をソリの代わりにして、その上さいっぱい食うもの乗せで、地蔵さま、そこさ置いで、笠かぶって向こうさ、地蔵さま、トコトコど行ぐな見えだっけど。
 ほだがらな、気持だげはええ気持もつど、人なて、どごで仕合せなて、めぐって来っかわがんねもんだじがらな、気持だげはきれいに持つもんだど。
どんびんと。

山形弁訳

『笠地蔵』
 むかし、じいさん、ばあさん、あまり裕福ではなくて、まず、明日のお正月の、今晩の年取りのおいしいものを買う銭もなかったんだと。
「じいさん、じいさんよ、我が家で売ってる笠で、何とかお正月とか年取りの準備しなくてはならないだろうなぁ」
なんて、ばあさんに言われたものだから、じいさんは笠を一階持って、【一階とは五つ】んで、町に出て、
「笠いらないでしょうか、かさいらないでしょうか」
て、町で大きな音立てて売るけれども、年取りの忙しい時、いまごろ皆準備してるんだろうし、笠なんて買う人、誰もいないのだと。
「仕様がないな、こりゃ。まず、売れないものは仕様がないだろ、まず、何もなくて、ばあさまと二人で年越すしかないなぁ」
なんて、ずうっと途中来たら、いつも通るけれども、あまり気づかない、地蔵さまの前を通った。
「地蔵さま、地蔵さま、また今年も雪チラチラ落ちて来たし、いくらか寒いだろうから、まず、この笠でもかぶって、温かい年取りして、正月迎えておくやいはぁ」
なんて、じいさま、笠束ねてるのを切って、一つずつ、ずうっとかぶせて、一人に足りなくなってしまったと。
「はて困ったな。仕様がない。今朝取り替えたばかりだから、褌(ふんどし)で悪いけれども、地蔵さま、褌(ふんどし)かぶってくださいな」
 褌とってかぶせて来たんだったと。
「ばあさま、ばあさま、町によ、笠売りに行ったけれども、誰も買う人がいなかったものだから、そして、途中に地蔵さまがいたもんだったから、あんまり、かわいそうで、温かい正月迎えてもらうように、地蔵さまに笠かぶせて来た。そして、一人の地蔵さま、悪いけれども、ばあさまが、取り替えてくれた、おれの褌かぶせてきたんだ」
「あらら、そんな褌なんて、罰あたるんじゃないか」
なんて、
「二人で、仕様がないから、お湯でも沸かして、熱い味噌お湯でも飲んで、温まって寝ることにしよう」
 そして、二人で床に入って寝た。
 そしたら、
エンコサラモンサラ
 ドッコイショ
エンコサラモンサラ
 ドッコイショ
っていう音がするのだと。
「はぁて、なんだろうなぁ」
 そしたら、家の前に来て、ドサンと音したんだと。
「いや、さっき、笠かぶせてくれたのは、こっちの家のじいさまだな。じいさま、ばあさま、明日いい正月迎えてくださいよ。ほりゃ、うまいもの持って来たし、餅も持って来たし、いっぱい持ってきたからなぁ」
 そして、戸を開けて見たら、その褌(ふんどし)をソリの代わりにして、その上にいっぱい食べ物乗せて、地蔵さま、そこに置いて、笠かぶって向こうに、トコトコと行くのが見えたっけど。
 だからな、気持ちだけはいい気持ちを持つと、人なんて、どこで幸せなんて、めぐってくるか分からないものだからな、気持ちだけはきれいに持つもんだと。
どんぴんと。