『金の斧・鉄の斧』
ある沼のほとりに、気持のええじんつぁと、ちいと意地の悪いじんつぁとあったど。
毎日、今みたい鋸なていうええもの無いがったもの、斧ていうの持って行って、柴ばチョキン、チョキンと切って、焚物とりしたもんだけど。
ほうして、気持ちのええじんつぁが沼のほとりで一生けんめい焚物切りしったら、手放れして、斧、ジャボンと沼さ落としてしまったんだど。
つるつる、つるつると深いどさ落として、
「こりゃ困った。明日から仕事さんねくて、御飯食んねぐなってくんべし・・・」なて、
「どうか沼の主さま。おれどこ助けっべと思って、斧とっておくやんねべか」
て、一生けんめい願ったど。そうしたれば、沼の中から、きれいな姉さま、
きれいな金で拵(こしゃ)った斧持って、
「じいさん、じいさん、お前落とした斧、これが」
「いやいや、とんでもない。そんげな斧、きれいなもんでない。
錆びてはいねげんども、鉄の黒い斧だっシ」
「お前、ずいぶん正直だな。ほじゃなぁ、鉄の斧とって来て呉っから、待っじぇろよ」
ほして、姉さ、水の中さ、スパーッと入って、ほして、
「これが」て、鉄の斧持ってきて呉で、
「そいつだっシ、そいつに間違いないっシ。どうもおしょうしな、おしょうしな」
「いや、お前はまず正直者だから、金の斧も呉でやっから、大事にしておげよ」
なて、金の斧ももらって、焚物拾って家さ帰って来たけずも。
隣のじんつぁ、遊びに来て、
「今日の山のあんばい、なじょだっけ」
「ううん、ええあんばいであったけぜ。おれ、沼のほとりで今日の仕事終わしてきたどこだ」
「なえだ、お前、そこさ飾ってだ斧、金の斧でないが。
なじょしたもんだ、こげなきれいな斧」
「あのなぁ、沼のほとりで木伐っていたもんだら、手放して、
ちょろっと手から抜けで、斧ぁ沼の中さ入っていったもんだから、まず、
沼の神さま、主さまさお願いして、かいつ拾ってもらったのよっシ。
ほうして一番最初拾ったな、この金の斧だげんども、こいつ、
おれでないて言うたらば、また鉄の斧拾っておぐやったんだけシ」
「やぁ、お前も随分欲のないじじいなもんだな。これ、ほだほだて、
二つも三つももらってくればよかったのよ。そんじゃ、
おれもこれから行って焚物切って、ええ斧もらってくんなね」
沼のほとりで、ジョキン、ジョキンと切って、手っぱづれしない斧を、
やあうど(わざと)沼の中さスポーンと放り込んでしまって、
「神さま、神さま、沼のお主さま、おれの斧拾っておくやいシ」て頼んだずも。
「ああ、じさま、斧落としたのか、なんぼか困ったもんだべ、この斧か」
て言うたずま、黒い斧持して呉で。
「ほんね、ほんね、おれ、そげな汚い斧でないシ。おれな、きれいな金の斧だシ」
「はぁ、ほだか。お前みたいな気持ちの悪いのさは、この斧も呉らんね。
中さおれ持って行んから。お前さ」て、すうっと神さま、沼の中さ入って行って、とうとう自分の斧ももらわねで帰って来たど。
ほだから、人の真似したり、悪れ根性など起こすもんでないけど。
神さま、すっかりみてやるもんだから。どんびん。