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『狐の恩返し』


 むがしむがし、ある村さ、一人の若者がいだっけど。
 若者は貧乏だっけげんども、年取りの日だもの、何か買ってきて年取りの真似事ぐらいしっちぇなぁって思って、町さ出がげだんだど。
 ほだげんど、途中まで来たどごで、村のオボゴメラが狐コ捕まえで、ぶったり引っ張ったりして遊んでだったんだど。
 若者はぁ、それ見だら、もごさぐなって、
「こらこら、おめんだ、そがな事するもんでねぇ」
って言ったんだど。ほしたら、
「おらんだ、捕まえだ狐だも何でごしゃがれんなねんや、かまわねで呉ろ」
って言うなだっけど。
「ほだげんどよ、もごせべぇ。ほんじゃ、ちぃとばりしかねえげんど、この銭どその狐、交換しねが」
なて言って、銭貰ったら、狐置いで、町さ買い物に行ったんだど。
「こんなどごで遊んでだがら捕まったんべ。早ぐおぼごの居ねどさ行げ」
 若者は狐をそごで放してやって、銭もねぐなったがら、家さ帰ったんだど。
 ほして、年取りもさんにぇがら、寝っかなぁって思ってだら、
「こんばんは。こんばんは」
って、若い綺麗な娘訪ねてきたんだど。
 若者は、娘が家間違えだんだど思って、
「間違えだんが。どさ行ぎっちぇなんや」
って聞いだんだど。ほしたら
「間違えでね。おれ、お前にさっき助けでもらった狐なんだ。お礼に来たなだ」
「なんだ。そがえな気ぃ遣わんだっていい。早ぐ誰にも捕まんねどさ帰れ」
「お礼したら、すぐ帰っから。今から馬さ化けっから、そしたら町の馬市でおれを売ってお金にしてけろ」
て言って、狐ぁ、クルッて回ったら、美しい馬に変わったんだど。
 ほだがら、若者は、その馬引いで馬市さ向がったんだど、ほしたら、一人の馬喰が近づいで来て、
「そごの若衆、ずいぶんいい馬だごど。それ売ってけんにぇが」
って、すぐに高く売れだんだど。
 ほうして、若者はそのお金で年取りの御馳走買って家さ帰ってきたんだど。
 狐のお陰で、いい年取りになるなぁ。あの狐コ大丈夫だべが・・なて考えったったら、トントントントンて誰が戸叩ぐんだど。
戸開げでみだらば、さっきの狐コが戻って来たんだっけど。
「馬になって、馬喰ど一緒に行ったんじゃねえなが」
って聞いだら、別っちゃ後、すぐに逃げだなだって言うのだど。
「ほだながぁ、ほだげんど、馬喰さ悪りごどしたなぁ」
「さすけねぇべ、狐は化げんなが商売なんだも」
なて言うなだど。ほして、
「次で最後だがら、もう一つお礼させでけろ。おれ、若い娘になっから、今度はおれを女郎屋さ売って呉ろ。ほうすっと、次の日、女郎屋の旦那が死ぬがら、この針で死んだ旦那さ刺してみろな」
って言うなだっけど。んだがら、若者は女郎屋さ行って狐コの娘どご売ってきたんだど。
 ほしたら、次の日、女郎屋の旦那死んだって聞こえで来たんだど。ほだがら、狐コに貰った針もって、女郎屋さ行ったんだど。
「おれ、旅の針師だげんど、死んだ人生き返らす針持ったなよ」
て女郎屋さ行ったら、どうかお願いだって言わっちぇ、旦那の胸のあだりさチクッて針刺してみだんだど。
ほしたら、その旦那生ぎ返ってはぁ、
「いや、これは命の恩人だ」
ていうごどになってぁ、お礼にその家がら、千両箱もらったんだど。
若者は、お正月の御馳走も買って家さ帰って、いい正月も過ごさっちゃんだど。
 狐がもってだった針は、生き針、死に針っていうなで、狐が死に針で刺して死んだ人だったら、生き針でもう一回刺すど生き返るものなんだど。
 どーびんと。

山形弁訳

『狐の恩返し』
 むかしむかし、ある村に、一人の若者がいたんだと。
 若者は貧乏だったけれども、年取りの日だから、何か買って来て年取りの真似事くらいしたいなぁって思って、町に出かけたんだと。
 けれども、途中まで来たところで、村の子供達が狐を捕まえて、ぶったり引っ張ったりして遊んでたんだと。
 若者は、それを見たらかわいそうになって、
「こらこら、お前達、そんな事するものじゃない」
って言ったんだと。そしたら、
「俺達が、捕まえた狐なのに何で怒られなければならないんだ。構わないでくれ」
って言うのだっけど
「だけどよ、かわいそうだろう。それじゃあ、ちょっとしかないけれど、このお金とその狐を交換しないか」
って言って、子供はお金を貰ったら、狐置いて、町に買い物に行ったんだと。
「こんなところで遊んでるから捕まったんだろ。早く子供達の居ないところに行け」
 若者は狐をそこで放してやって、御金もなくなったから、家に帰ったんだと。
 そして、年取りもできなくなったから、寝ようかなって思っていたら、
「こんばんは。こんばんは」
って、若い綺麗な娘が訪ねて来たんだと。
 若者は娘が間違えたんだと思って、
「間違えだんですか。どこに行きたいんですか」
って聞いたんだと。そしたら
「間違えてない。おれ、お前にさっき助けてもらった狐なんだ。お礼に来たんです」
「なんだ、そんな気を使わなくていいから、早く誰にも捕まらないところに帰れ」
「お礼したら、すぐ帰るから。今から馬に化けるから、そしたら、町の馬市でおれを売ってお金にしてください」
って言って、狐がクルッて回ったら、美しい馬に変わったんだと。
 しょうがないから、若者は、その馬を引いて馬市に向かったんだと。ほしたら一人の馬喰が近づいてきて、
「そこの若い人、随分といい馬だなぁ。それ売ってくれないか」
ってすぐに高く売れたんだと。
 そうして、若者はそのお金で年取りの御馳走買って家に帰って来たんだと。
 狐のお陰で、いい年取りになるなぁ。あの狐は大丈夫だろうか・・なんて考えていたら、トントントントンって誰かが戸を叩くんだと。
戸を開けてみたら、さっきの狐が戻って来たんだと。
「馬になって馬喰と一緒に行ったんじゃないのか」
って聞いたら、別れた後、すぐに逃げて来たんだって言うのだと。
「そうなのか。だけど、馬喰には悪いことをしたなぁ」
「問題ないですよ。だって狐は化けるのが商売なんですから」
なて言うのだと。そして、
「次で最後だから、もう一つお礼させてください。おれ、若い娘になるから、今度はおれを売って女郎屋に売ってください。そうすると次の日、女郎屋の旦那が死ぬから、この針で死んだ旦那を刺してみてくださいね」
って言うんだっけど。だから、若者は女郎屋に行って狐の娘を売って来たんだと。
 そしたら、次の日、女郎屋の旦那が死んだって聞こえて来たんだと。だから、狐に貰った針をもって、女郎屋に行ったんだと。
「おれ、旅の針師だけれど、死んだ人を生き返らす針を持ってるんです」
って女郎屋に行ったら、どうかお願いだって言われて、旦那の胸のあたりにチクッて針刺してみたんだと。
そしたら、その旦那が生き返って、
「いや、これは命の恩人だ」
ということになって、お礼にその家から千両箱貰ったんだと。
若者は、お正月の御馳走も買って家に帰って、いい正月も過ごすことができたんだと。
 狐が持っていた針は、生き針、死に針っていうもので、狐が死に針で刺して死んだ人だったら、生き針でもう一回さすと生き返るもんなんだと。
 どーびんと。