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『米塚山と糠塚山』

 むがしむがし、山々がみな火吹いったったころ、今の山形県最上地方さ、米塚山と糠塚山ってなが出できて、語りくらべ始めだんだど。
  ある日、話しったうぢに
「一晩でどっちがでっかぐなられっか、おがりくらべしてみねが」
っていう話になって、「おがりくらべ」すっこどになったんだど。
  米塚が一尺おっきぐなっと、糠塚も負げねように二尺おっきぐなるっていうぐあいに、頑張ってはみんなだげんど、ながなが思い通りにおっきぐならんにぇがったんだど。
  米塚は高ぐなればなるほど、米の重みで崩っちぇしまうし、糠塚は自分吐ぐ息で糠が飛んで、高ぐならんにぇがったんだど。
  ほうして、にわとり鳴ぎ始めだころ、ふたっつの山の「おがりくらべ」どご見ったった天の神様が、
「山がおがりくらべするつきゃ、なに考えったなだ」
って、すっかりごしゃいではぁ、そんどぎ高がった糠塚どご足で蹴っぽったんだど。
  それ見だ米塚はちっちゃぐなってはぁ、それがら、おがりくらべはしねぐなって、米塚はちっちゃいまんまで、糠塚はおっきいげんども頭のほうがちょっと欠げだ形になったんだど。
  どーびんと。

山形弁訳

『米塚山と糠塚山』
むかし、むかし、山々がみな火を吹いていたころ、今の山形県最上地方に、米塚山と糠塚山という山が出てきて、語りくらべを始めたんだと。
  ある日、話をしているうちに、
「一晩でどっちが大きくなれるか、【おがりくらべ】をしてみないか」
という話になって、【おがりくらべ】をすることになったんだと。
  米塚が一尺大きくなると、糠塚も負けないように二尺大きくなるという具合に、頑張ってはみるのだけれど、なかなか思い通りに大きくなれなかったんだと。
  米塚は高くなればなるほど、米の重みで崩れてしまうし、糠塚は自分の吐く息で糠が飛んで、高くなれなかったんだと。
  そして、にわとりが鳴き始めたころ、二つの山の【おがりくらべ】を見ていた天の神様が、
「山が【おがりくらべ】するなど、何事だ」
ってすっかり怒って、そのとき高かった糠塚を足で蹴ったんだと。
  それを見た米塚は小さくなって、それから、【おがりくらべ】はしなくなって、米塚は小さいままで、糠塚は大きいけれども頂上のほうがちょっと欠けた形になったんだと。
  どーびんと。