『食わず女房』
むがし、あるどさ一人の若者いだっけど。
その若者はいっつも、
「おら、飯かねおかた欲しいなよ」
って言ってだっけど。
んだげんど、飯かねで生ぎられる人間なて、いねも、誰も相手にしねがったんだど。
んだげんど、いつだかの晩方に
「こんばんは」
なて、きれいな姉さま来たっけんだど。
ほして、その姉さま、
「あのよ、おれ、飯かねくてもいいがら、おれどごおかたにしてけんにぇが」
って言うのだっけど。
若者は願ったりかなったりで、おかたにしたんだど。
ほしたら、その姉さまは、飯もかねで、一生懸命働ぐんだど。
んだげんど、
「ほだげんど、おがしいなぁ、飯食ってねぇじば、おら家の米びつん中、いっつも減ってぐみでだなぁ、おれ居ねどぎ食ってだでねえべが」
なて、稼ぎさ行ぐふりして、裏がらこっそり家の梁さ登って見でっこどにしたんだど。
ほしたら、やっぱりおかたが米びつがら米出して、おっきな釜で米炊ぎ始めだんだど。
ほして、米炊きあがったど思ったらば、おかたは髪結ってだなバッって解いたんだと。
ほしたら、おかたの頭がバガッて割っちぇ、そごさ、さっきの米ドガドガ入っちぇだったんだど。
若者は、それ見だら魂消ではぁ、逃げっかど思ったら、カタンて音出してしまったんだど。
それで、おかたが気づいではぁ、
「兄ンにゃ、見だな」
って、近ぐさあった桶たがって、若者どご、追っかげできたんだど。
若者はわらわら逃げんなだげんど、おかたの早ぇごど早ぇごど。
振り返ってみだらば、きれいだったおかたが、耳まで割っちぇだ口で、真白な髪の毛になって、追っかげでくんなだっけど。
ほして、若者は捕まったど思ったら、桶さ入れらっちぇ、山の中さ連れで行がっちゃんだど。
若者は、なじょしてが逃げんなねど思って、林の中通ったどぎに、松の枝さ手ぐついで、桶がら逃げ出したんだど。
ほうして、わらわら逃げて来たんだど。
しばらぐしたら、そのおかたが、逃げだごどに気づいで、ドガドガ追っかげできたんだど。
若者は、捕まりそうになったもんだがら、川端の藪さ入って行ったんだど。
ほしたら、おかたは、
「うわぁ、こりゃダメだ。おれは、これさ触っと、足が腐っちぇしまう・・」
ってわらわら逃げでったんだど。
若者のおかたは山姥で、山姥は蓬ど菖蒲が苦手なんだど。
んだがら、お節句には、みな戸さ蓬ど菖蒲をさしたもんなんだど。
どーびんど。