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『猫の宮』

 むがし、あるどごさ、ほんに猫めんごがってた爺さんと婆さんいだっけど。
 その部落さ何年かぶりに芝居来っこどになったんだど。
 ほうして、家内中みんなで行ぐごどになったんだど。
 んだげんど、家さ誰も居ねぐなるわげにいがねがら、
「誰留守番すっぺ」
ってごどになって、ほしたら、爺さんが、
「いや、おらど婆さん、今まで何べんも見だがら、おめんだだけで行って来い」
って言ったもんだがら、爺さんど婆さん留守番して、みんな芝居さ行ったっけど。  爺さんど婆さん留守番しったったら、いっつも大事にしった猫ぁ、
「爺さん、婆さんよ、おれ、これがら踊りおどっし、ちょうど今頃、芝居は千本桜でもしったころだべ。おれ、おどっから、爺さんど婆さん、手打って拍子とってけろ」
なて、猫ぁホッコかぶって踊り始めだと。
爺さん、婆さんも一生懸命合槌打って、コリャコリャて囃子したんだっけど。
ほして、踊りおわってがら、猫が、
「おれ、踊りおどったごどは、誰さも教しぇねで呉ろよ」
って言ったんだど。
 それがら、3年ばり経って、何の拍子だが、婆さんが、
「いや、おめんだ芝居さ行ったどぎよ、猫ぁ踊りおどったんだっけ」
て、しゃべってしまったんだど。
ほしたらば、猫ぁ、その晩に、爺さんと婆さんの喉笛食い殺して、どさが行ってしまったんだど。
 高畠のある大きな家で、そごさ一匹の猫、舞い込んできたんだど。ほうして、
「こがえな野良猫みでな飼っておがんにぇ」
「んだげど、せっかぐおら家さ来たなだも、飼って置がんなねべもなぁ」
なて、大事にめんごがるようになったんだど。
 その猫、よたよたって居っけんども、そごの家のおかみさんが、便所さ行ぐど、かまわずついてくんのだど。そうして、入口のどごでちょこんと丸ぐなって待ってんなだっけど。
便所さ行ぐたんびに猫ついてくるもんだがら、おかみさん気味悪りぐなって、旦那さまさ教しえだど。、次の日、こうして見ったらば、やっぱり、おかみさん便所さ行ったらば、ついでって猫ぁ、そごさちょこんて丸ぐなって待ってんなだっけど。
旦那さまごしゃいで、刀でスパーッと猫の首もいだど。そうしたらば、猫の首はダーンって廊下の角さバーンと上がって、ほしてガタガタ、ガタガタていだど思ったら、
バダーン
て、首ど一緒に何が落ぢで来たんだど。
見だらば、猫の口ぁ大きなマムシの首さ喰らいついったんだど。
 猫ぁ助けでもらったおかみさんの身守ってけっちぇだったんだど。
その猫どご、神さまに祀ったのが猫の宮なんだと。
 ほだがらな、猫だど思って、約束したごど守んねど、めんごがってでも仇すんなだど。
まだ、助けだり、ちゃんとめんごがってけっと、今話したみでに、身守ってけっちゃりして、恩返すなだど。ほだがら、昔から猫つうもんは魔物ど言うなだど。
どーびんと。

山形弁訳

『猫の宮』
  むかし、あるところに、ほんとうに猫をかわいがっている爺さんと婆さんがいましたと。
  その集落に何年かぶりに芝居がくることになったそうな。
  そして、家内中みんなで行くことになったんだと。
  けれども、家に誰もいなくなるわけにはいかないから、
「誰が留守番しようか」
ってことになって、そしたら、爺さんが、
「いや、俺と婆さんは、今まで何度も見たから、お前達だけで行って来い」
って言ってくれたものだから、爺さんと婆さんが留守番して、みんなは芝居に行ったんだと。爺さんと婆さんが留守番していたら、いつも大事にしている猫が、
「爺さん、婆さんよ、おれ、これから踊りをおどるよ、ちょうど今頃、芝居は千本桜でもやっている頃だろ。おれ、おどるから、爺さんと婆さんは手打って拍子をとってくださいな」
って言って、猫はホッコかぶって踊り始めたんだと。
爺さんも婆さんも一生懸命合槌打って、コリャコリャて囃子したんだと。
そして、踊りおわってから、猫が、
「おれ、踊りおどったことは、誰にも教えないでくださいよ」
って言ったんだと。
  それから、3年ばかり経って、何の拍子にか婆さんが、
「いや、お前達が芝居に行ったときよ、猫が踊りをおどったんだっけ」
て、しゃべってしまったんだと。
そしたら、猫は、その晩に、爺さんと婆さんの喉笛食い殺して、どこかに行ってしまったんだと。
  高畠のある大きな家で、そこに一匹の猫、舞い込んできたんだと。そして、
「こんな野良猫みたいな猫を飼っておくことはできない」
「だけど、せっかく我が家に来たのだから、飼っておかなければならないだろうなぁ」
って、大事にかわいがるようになったんだと。
  その猫、よたよたしているのだけれども、そこの家のおかみさんが、便所に行くと、かまわずついてくるんだと。そして、入口のところで、ちょこんと丸くなって待っているんだと。便所に行く度についてくるものだから、おかみさんは気味悪くなって、旦那さまに教えたんだと。次の日、こうして見ていたら、やっぱり、おかみさんが便所に行ったら、ついていって猫は、そこにちょこんと丸くなって待っているんだと。
旦那さまは怒って、刀でスパーッと猫の首をもいだんだと。そしたら、猫の首はダーンって廊下の角にバーンと上がって、そして、ガタガタ、ガタガタと鳴っていたと思ったら、
バターン
て、首と一緒に何か落ちてきたんだと。
見てみると、猫の口は、大きなマムシの首に喰らいついていたんだと。
  猫は、助けてもらったおかみさんの身を守ってくれていたんだと。
その猫を祀ったのが猫の宮なんだと。
  だから、猫だと思って、約束したことを守らないと、かわいがっていても仇するし、また、助けたり、ちゃんとかわいがっていると、今話したみたいに、身を守ってくれたりして、恩を返すんだと。だから、昔から猫は魔物と言われているんだと。
どーびんと。