『[オ]の字』
むがあしむがあし、あるどごさ、
とでも器量よしの娘いだっけど。器量はいいんだげんども、少しばかり頭われ娘だっけど。
その娘ぁ見込まっちぇ、とっても、だんなす(金持ち)の家さ、
嫁に貰われるごどになったなだそうだ。
お母ぁは心配してはぁ、
「お前は顔つぎはいいんだげんども、喋るごどはぞんざいで困ったもんだ、
喋っときには、何でも[オ]をつげっと、いぐ聞こえっから、
人ど喋っとぎは[オ]つげで喋れよ」
っておしぇらっちぇ、むがさりさ行ったけど。
そうして、しばらぐしてがら、流しで後仕舞しったけど。
そうしたら、流しの窓の隙間がら風はいってきて、
柱さぶらさげったった擂粉木棒が、コトンコトンと鳴ったんだど。
ほしたら、嫁は、みなの居だ囲炉裏側さ来て、
「あのなぁ、お窓のお隙間がらお風が入ってきて、お擂粉木棒が、おコトンおコトンって鳴ったっけっし」
と言ったんだと。嫁は何にもしゃべんねど悪い、ど思って喋ったんだげんども、
ははぁ、家で[オ]つげで喋ろ、っておしぇらっちぇきたなぁ、
と思ったお母さは、
「あのな、[オ]つけんなはな、とってもいいごどだげんども、
何さも、かにさも[オ]つけねくたっていいごでぇ」
とおしぇらっちゃど。
次の朝、みな揃って、御飯食っていだどぎに、向かいさ座ってだお父っつぁまの、おどがい(あご)さ御飯粒ついったったんだど。
嫁は、ははぁ、おもしぇなぁ、んだげんどこれは黙ってらんにぇべなぁ、ど思って、
「あのなっし、ヤジ、ドガエさ、ママついで、ラ、ガシ、ラ、ガシ」
・・・親父のおどがいさ、御飯粒ついで、おら、おがし、おら、おがし。
って、言いっちぇがったんだげんど、
[オ]つけねだっていいって、おしぇらっちゃもんだがら、[オ]どごとったらば、そういう言葉になったんだど。
ほだがら、馬鹿になんねように、勉強しとがんなねもんだど。
とーびんと。