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『おぶさりたい 杉の木』

 むがあしむがし、ある村の村はずれさ、
 一本の大きな杉の木が、街道端さあったけっど。
 晩方になっと、その杉の木の天上がら、
「おぶさりたい、おぶさりたい」
という音、聞ごえでくるごんだど。
あの杉の木の上さ化物いだなであんめが、と村の衆は、おっかねくて、気味悪りくて夜になっと、誰もその道通らんにぇくて、ぐるーっと、遠回りして歩いたったけど。
 その村の若衆はよ、毎年毎年度胸試しだの、何んだのして、俺は一番の度胸者だなどど自慢したり、俺は村一番の力持ぢだ、なて自慢しあって楽しんでだっけど。
「また度胸試しでもしっか」
という話になって、村の衆は集まったけど。
「クジ引きで当だった者は、おぶさりだいの杉の木まで行ってくるごど」
と約束してクジ引きしたんだど。
そうしたどごろぁ、村一番の臆病者がそのクジさ当だってしまってはぁ、
「俺らやんだ、俺らやんだ」
なて尻込みしたげんども、
「お前ぇクジさ当だったもんだも、やんだなていねで、いがんなねごでぇ」
なて皆がら、やいのやいのど言われで、太ぐ綯(な)った荷縄を持ってぐごどになったど。
「俺らおっかねなぁ、俺らおっかねなぁ」
って言いながら、杉の木の近ぐまで行ぐど、上の方がら
「おぶさりだい、おぶさりだぁーい」
と言う音聞こえできたもんだがら、おっかねなこらえで、そろりそろりと木の下まで行ったっけど。
 そうしたらば今度は、大きな音で、
「おぶさりだい、おぶさりだぁーい」
ど言うごんだどもよ。おっかねもんだがら、目つぶって、
「そがいに”おぶさりだい”ごんじゃ、おぶされ、この荷縄でぎっちり縛って放さねぞ」
と言って、若衆はぁ後ろ向ぎになったんだど。
そうしたらば、上がらドサーンど背中さ、何が落ぢできたもんだがら、
若衆は、たまげで荷縄でぎっちりど縛って、
「ウワアー」
ど、おっきな声出して走ってきたど。
「えやえや、おっかねくておっかねくて、やっとおぶってきた」
と言ったら、
「なにだ、カマス一つ背負ってきて、何しったごんだ」
なて、皆がら言わっちゃんだど。
おっかねくて、やっとおぶってきたじば・・・、
と思って、そのカマス開げでみだらば、
 中さ大判小判が、いっぺ入ってだっけど。
 それはよ、むがあし泥棒が盗んで隠しておいだものだったそうだ。
 木の根元さ隠しったったカマスだったんだげんども、
木伸びるたんびに、天上の方さ上ってしまったなだど。
 そいづぁ、世の中さ出だぐて
「おぶさりだい、おぶさりだぁーい」
って言ってだったんだげんども、誰も”おぶって”けんにぇくていだどごさ、
 臆病者の若衆が”おぶされ”と勇気を持って背中向げでけっちゃもんだがら、
 よろごんで、おぶさってきて、世の中さだしてもらったんだど。
 そうして、臆病者は、大判小判の分け前いっぺ貰って、臆病者どいう名は消えで、立派な若者になったど。
 ほだがらなぁ、男じゃ度胸持って、何んでもしんなねどいうごどだな。
 とーびんと。

山形弁訳

『おぶさりたい 杉の木』
 むかしむかし、ある村の村はずれに、
  一本の大きな杉の木が、街道端にあったんだと。
  晩方になると、その杉の木の天上から、
「おぶさりたい、おぶさりたい」
という音が聞こえてくるのだそうな。
あの杉の上に化物がいるのではないだろうか、と村の衆は、恐くて、気味が悪くて、夜になると、誰もその道を通ることが出来なくて、ぐるーっと、遠回りして歩いていたんだと。
 その村の若衆はよ、毎年毎年度胸試しだの、何だのして、俺は一番の度胸者だなどと自慢したり、俺は村一番の力持ちだ、なんて自慢しあって楽しんでたそうな。
「また度胸試しでもやるか」
という話になって、村の衆は集まったんだと。
「クジ引きで当たったものは、おぶさりたいの杉の木まで行ってくること」
と約束してクジ引きしたんだと。
そうしたら、村一番の臆病者がそのクジに当たってしまって、
「俺いやだ、俺いやだ」
なんて、尻込みしたんだけれども、
「お前クジに当たったんだから、嫌だなんて言ってないで、行かなきゃならないだろう」
なんて皆に、やいのやいのと言われて、太く綯(な)った荷縄を持っていくことになったんだと。
「俺恐いなぁ、俺恐いなぁ」
って言いながら、杉の木の近くまで行くと、上の方から、
「おぶさりたい、おぶさりたーい」
という音が聞こえてきたものだから、恐いのを我慢して、そろりそろりと木の下まで行ったそうだ。
  そうしたら今度は、大きな音で、
「おぶさりたい、おぶさりたーい」
と言うのだそうな。恐いものだから、目をつむって、
「そんなに”おぶさりたい”のだったら、おぶされ、この荷縄でしっかり縛って放さないからな」
と言って、若衆は後ろ向きになったんだと。
そうしたら、上からドサーンと背中に、何かが落ちてきたものだから、
若衆は、びっくりして荷縄でしっかりと縛って、
「ウワァー」
と大きな声出して走って帰ったんだと。
「いやいや、恐くて恐くて、やっとおぶってきた」
と言ったら、
「なんだ、カマス一つ背負ってきて、何をやっているんだ」
なんて、皆から言われたんだと。
恐くて、やっとおぶってきたのに・・・。
と思って、そのカマスを開けてみたら、
  中には大判小判が、いっぱい入っていたんだと。
  それはよ、むかし泥棒が盗んで隠しておいたものだったそうな。
  木の根元に隠してあったカマスだったのだけれども、木が伸びるたびに、天上の方に上ってしまったんだと。
  そいつは、世の中に出たくて、
「おぶさりたい、おぶさりたい」
って言ってたのだけれども、誰も”おぶって”くれなかったところに、
  臆病者の若衆が”おぶされ”と勇気を持って背中を向けてくれたものだから、
  喜んでおぶさってきて、世の中に出してもらったのだと。
  そうして、臆病者は、大判小判の分け前をたくさん貰って、臆病者という名も消えて、立派な若者になったそうな。
  だからな、男と言うものは度胸を持って、何でもやらなければならないということだ。
 とーびんと。