『娘のお百夜まいり』
むがしむがし、ある村さ寺あったど。
その寺で貰う魔除げのお札はよぐ効ぐごど知らっちぇで、いろんな人がその寺どご訪ねで来っかったんだど。
ある夏の初め、夕暮れ時にきれいな女の人が寺さ来て、
「魔除げのお札貰いさ来たなだげんど、一枚分げで貰わんにぇべが」
って言うのだっけど。
ほだげんど、あいにぐ和尚様は町さ行ってで居ねがったんだど。
寺の小僧は、気の毒に思ったげんど、
「和尚様いねど分がんねがら、まだ明日来てけろ」
って言って帰って貰ったんだど。
和尚様は帰ってきてがら小僧の話聞いだんだど。
その晩のごど、床さ入った和尚様の夢の中さ、本堂の仏様出できて、
「明日お札貰いさくる娘は裏山の化物だ。百夜通わせで弱まったどごさ、お札けっちぇやんだぞ…」
って言って消えだごんだど。
次の日の夕方、小僧がら話に聞いだ娘が訪ねできたんだど。
和尚様は仏様の言いつけどおりに、
「初めでの者さお札やっとぎは百夜の願いを掛げで貰わんなねなだ」
って言ったら娘は、
「まだ明日来ます」
って言って帰ってったんだど。
それがら毎日、娘は願掛げに寺さ訪ねで来たんだど。
夏が過ぎで秋も過ぎだころ、娘は目に見えて弱って来たんだど。
ほして、百日目になった日、和尚様と小僧は寺のあちこちさお札貼って、お経読みながら娘来んな待っちぇだったど。
山門まで来た娘は、お経聞いでお札見だらば、ブルブルて震えだして、あっという間に真っ黒な化物になって、山門から境内まで入り込んで来たんだど。
その時、空がら一筋の光が寺の池さ射したがと思ったら、池がら一匹の竜が飛び出して、化物さかがってったんだど。弱ってだった化物は竜に池の中さ引き込まっちぇしまったんだど。
それがらこの寺は竜徳寺って呼ばれるようになったんだど。
どーびんと。