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『大鳥と大海老と大鯨』

 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)ざぁ、大きな鳥で、羽根ひろげっど、
片方の羽根さ、山も二つもかかるほどの大きな鳥だったけど、ほうして日本国中、ずぅっと飛んできて、海の中さ大きな枯れ木のようなもの二本出っだもんだがら、そごさ止まって、
「いや、日本中旅してみだが、随分広いもんだ。随分広いげんども、おれぐらい大きいもの、世の中にいねな、こりゃ。おれは何ったて、世の中で一番大きいなぁ、こりゃ。」
なて、自慢にしったけど。
「こりゃ、ひとの髭さたぐついでんの、誰だ」
なて、大きい音すんのだど。
「何だなて、お前こそ何者だ」
「おれが、おれは今、海の中に居っげんども、海老だ。ひとの髭さ止まって、何だ。大きいどがて、おれくらい大きい者いねぇぞ。おれは大海老だ」
なて威張る。
「いやいや、海老の髭ざぁ、こがえに太いもんだがい、おれより大きい者いねななて、こんな髭見たばりで、おれぁ魂消だ」
なて、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどぁ海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥ぁ大きいなて自慢しったけぁ、逃げで行ったな、こりゃ」
 海老ぁじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いったらば、
「あんまり騒ぎすぎだ。くたびっじゃなぁ」
 大きな海の中の洞穴みだいなどごさ、ちょっと入って、
「ひと休みすっかぁ、まず、おれも日本国中騒いでみだげんども、おれくらい大きな者は居ねもんだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥ぁ逃げて行ったし、おれ、何したて一番者だ」
「誰だ、そごで、おれぐらい大きな者いねなて、威張ってんな、おれの鼻の孔の中、もそもそて、ウウン、ハクション」
て、吹っ飛ばさっじゃど。そうしたらば海老ぁ、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰びーんとぶっつげて、それがら海老ぁ、腰曲がったど。ほうしたらば、
何者だが、
「おれぁ、世の中見で、海老大きいなて、鳳凰鳥大きいなて、おれくらい大きな者居ね、おれは鯨っていう者だ」
 ほうして日本もあんまり小っちゃこくて、傍さいらんねくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いで、いんなだど。
どーびんと。

山形弁訳

『大鳥と大海老と大鯨』
 いや、大きな鳳凰の鳥(こうのとり)っていうのは、大きな鳥で、羽根を広げると、片方の羽根に、山が二つもかかるほどの大きな鳥だった、そうして日本国中、ずうっと飛んできて、海の中に大きな枯れ木のようなものが二本でてたものだから、そこに止まって、
「いや、日本中旅してみたが、随分広いものだ。随分広いけれども、おれくらい大きいもの、世の中にいないなぁ、こりゃ。おれは何たって、世の中で一番大きいなあ、こりゃ。」
なんて自慢にしてたど。
「こりゃ、ひとの髭にくっついてるの、誰だ。」
って大きい音するんだと。
「何だなんて、お前こそ何者だ。」
「おれが、おれは今、海の中に居るけれども、海老だ。ひとの髭に止まって、なんだ。大きいなんて、おれくらい大きい者いないぞ。おれは大海老だ。」
なんて威張る。
「いやいや、海老の髭って言うものは、こんなに太いものなのか、おれより大きい者いないなんて、こんな髭みたら、おれは魂消えた。」
って、わらわら大鳥飛んで行ってしまった。
こんどは海老ぁ、
「いやいや、鳳凰鳥は大きいなんて自慢してけど、逃げて行ったな、こりゃ。」
 海老はじゃーって泳いで、ずうっと日本国中廻って歩いたてら、
「あんまり騒ぎすぎた。疲れたなぁ。」
 大きな海の中の洞穴みたいなところに、ちょっと入って、
「ひと休みするかなぁ、まず、おれも日本国中騒いで見たけれども、おれくらい大きなものは居ないものだなぁ、こりゃ。鳳凰鳥は逃げて行ったし、おれ、何しても一番者だ。」
「誰だ、そこで、おれくらい大きな者いないなんて、威張ってるのは、おれの鼻の孔の中、もそもそって、ウウン、ハクション。」
って吹き飛ばされたんど。そうしたら、海老は、伊勢の方まで吹っ飛んできて、腰をびーんとぶつけて、それから海老は、腰が曲がったんだと。そうしたらば、何者か、
「おれは、世の中見て、海老大きいなんて、鳳凰鳥大きいなんて、おれくらい大きいものはいない、おれは鯨という者だ。」
 そうして、日本もあまりに小さくて、そばにいれなくて、南の海、北の海までずうっと鯨が騒いでいるのだと。
どーびんと。