『和尚の頭に小便』
むかし、山の麓の宿場町、そごさ山越すなに、馬子ていうないで、
篭の代わりに馬さ乗せで、その峠を越す商売する人、いだっけど。
そごの十二、三歳の小っちゃこい馬子さ、和尚さま、乗ったごんだど。
タッタッタッタッと馬さ乗せで、話しながら登って行ったど。
ほしたら小僧コ、小便出るぐなったども。
「和尚さん、待ってろな」
なて、そごさ小便たれっと思ったら、
「こらこら、こら、小僧、ほんな大道さ、小便垂れるもんでね。
大道さ小便たっちゃらば道陸(どうろく)神さま(道祖神ともいう)いだがら、小便するもんでねぇごで」
て、教えらっちゃど。
「はて、それも、ほだごでな」
それがら間もなぐ、ずうっと行ったら、今度小っちゃこい川、流っちぇだっけども。そごさ、小便すっかど思ったら、また、
「こらこら、水の流れさは、お水神さまどいうな、川の中さいんなだがら、水さ小便するもんでね」
「はて、どこにもかごにも、神さまいるもんだな、こりゃ。それもほだごでなぁ」
また行ったど。
「小僧、まず、ここで一服すんべ、まず」
なて、和尚さま、馬がら降ぢて、岩さ腰掛けて、汗拭きなどしったけど。
ほうしたれば、小僧、和尚さまの頭見っだけぁ、タッタッ、タッタッと岩さ上がって行ったけども。和尚さまより高い岩さ上がって、和尚さまの頭さ、シャーシャーど小便したっけど。
いや、和尚さま、ごしゃいで、
「何だ、この小僧、人の頭さ小便たっちぇ・・・」
「ほだげんどもよ、和尚さま、道路さ小便たれっと道陸神、神さまいるっていうべし、川さお水神さまて、いだべし、どごさ行っても神さま神さまて。今、和尚さまの頭見だら、カミ(髪)ぁないがら、んだがら、和尚さまの頭さ小便たっちゃんだ」
なて、馬引っぱってわらわら逃げて行ったっけど。
どーびんと。