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『お正月』

 むがし、爺さまど婆さまいだっけど。
貧乏な暮らしだっけげんども、お正月ぐらいは、
油みでな酒呑んで、コッパみでな魚で、雪みでな飯食うべど思ってだったんだど。
んだがら、元日の朝は早ぐ起ぎで、
「水汲め、金汲め、三種の宝汲め」
て言いながらカメさいっぺ水汲んでたんだと。
  そごさ一人のみすぼらしい和尚様が、嗄っちゃ声で
「腹へって動がんにぇぐなった。何が恵んどごやぇ」
て戸ノ口さ倒れ込んできたんだど。
爺さまど婆さまは、お膳みながら、しばらぐ思案してだっけど。
「助けどごやぇ、恵んどごやぇ」
その嗄っちゃ声聞いで、
「ほだなあ、ほんじゃ大した御馳走でもねぇげんども、これ食ってもらうべえ」
ど言って婆さまのお膳の物、全部けっちぇやったんだど。
そして残った爺さまのお膳を二人で仲良ぐ食ったど。
  お正月あ ええもんだ
  油みでな 酒呑んで
  コッパみでな 魚食って
と言いながら二人で寝たんだと。
  そして、次の朝起きてみたらば、
戸ノ口さ大判小判おいであったんだど。
それがらは、爺さまど婆さま、仲良ぐ裕福に暮らしたんだと。
とーびんと。

山形弁訳

『お正月』
  むかし、爺さまと婆さまがいたんだと。
貧乏な暮らしだったんだけれども、お正月くらいは、油のような酒を呑んで、コッパのような魚で、雪のようなご飯を食べようと思ってたんだと。
だから、元日の朝は早く起きて、
「水汲め、金汲め、三種の宝汲め」
て言いながらカメにたくさんの水を汲んでいたんだと。
 そこに一人のみすぼらしい和尚様が、嗄れた声で、
「腹がへって動けなくなった。何か恵んでくれませんか」
て玄関に倒れこんできたんだと。
爺さまと婆さまは、お膳をみながらしばらく思案してたんだと。
「助けてください。恵んでください」
その嗄れた声を聞いて、
「そうだな、それじゃあ大した御馳走でもないが、これを食べてもらおう」
と言って婆さまのお膳の物、全部あげたんだと。
そして残った爺さまのお膳を二人で仲良く食ったんだと。
 お正月ぁ いいもんだ
 油みたいな 酒呑んで
 コッパみたいな 魚食って
と言いながら二人で寝たんだと。
 そして、次の朝起きてみたらば、
戸ノ口に大判小判おいてあったんだと。
それからは、爺さまと婆さま、仲良く裕福に暮らしたんだと。
とーびんと。