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『三枚のお札』

 むがし、むがしあったど。
彼岸が来て、綺麗な姉様寺参りさ来たっけど。
あんまり綺麗な姉様だもんだがら、寺の小坊主、ボーっとなって、姉様の下駄隠しだど。
帰りに姉様の下駄ねぇもんだがら、
「小坊っちゃ、私の下駄ねえなよ。後でお礼すっから、下駄探しておごやぇ」
って頼んだど。ほうして、
「私は、山奥のほうさ住んでだがら、栗が沢山なったら、お礼に栗食いに来とごぇ」
って言って帰って行ったど。
 秋がきて、綺麗な姉様のごど思い出して、行ぎだくなって、和尚様さ頼んだど。
 和尚様は、
変な姉様だったげんど、大丈夫だべがなぁ。
って思ったげんど、仕方ねぐ、
「有難い経文札三枚呉(け)っちぇやっから、困った時、危険な目さ遭った時、お札さ願いかげで頼めよ」
って、三枚のお札貰って山奥さ行ったど。
小坊主が姉様の家さ着ぐど洗濯しったけど。
「よぐ来とごやった、さぁさぁ上がっとごやぇ」
「丁度、栗のさかりだがら、洗濯終わるまで栗拾いしてきとごやぇ」
って言われ、裏山がら籠いっぱい拾ってきたど。
ほうして、煮だり、焼いだりして、栗いっぺごっつぉになったど。
「小坊っちゃ、日暮れできたがら、これがら戻んなは大変だべ。今夜は泊まっていったらいいんねが」
って言われで、座敷さ泊めでもらったど。
ほして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めだど。
そしたら、姉様ぁ鬼になって火焚ぎしったっけど。
「栗いっぱい食った小坊主は、なんぼが、んめがんべなぁ」
ってブツブツ言ってだっけど。
  俺食われでしまう、逃げ出さんなね。
と思案したど。
「姉様、俺、雪隠(便所)さ行ってくる」
って言ったけど。
「ほんじゃ、腰さ綱付けで行げ」
長い綱付けらっちぇはぁ、雪隠さ行ったど。
そして考えだど。
雪隠の取っ手さ一枚のお札つけで、
「呼ばっちゃら、返事してけろな、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠がら戻って来ねもんだがら、姉様、鬼の顔丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
って聞いだど、お札は、
〈まだだぁ〉
って返事したっけど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げだど。
それがら又、
「小坊主、小坊主、まだだがぁ」
〈まだだぁ〉
三回も四回も五回も呼んだげど、返事はすっけんども、さっぱり出でこねがったど。
おがしなぁど思って行ってみだらば、綱どお札しかねがった。
「小坊主に逃げらっちゃ、まだその辺さいだべ」
と、鬼ぁ小坊主どご追っかげだど。
鬼の足ぁ早いもんだがら、たぢまぢ追いつがっちぇ、取って食われっとごだったど。
和尚様がらもらった、有難い経文のお札又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げでやったど。
そしたら、大っきな、とんでもねぐ大っきな砂山出来だど。
鬼ぁ登っと、ズルズルズルズル崩っちぇ、ながなが(なかなか)登らんにぇがったど。
ほだげんど、鬼の足ぁ早いもんだがら、又追いついで、食われそうになったど。
もう一枚残ってだお札さ、願いこめで、
「大川になれー」
って叫んでお札投げでやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼ぁ、流されそうになっても、必死になって泳いできたげんども、流れが強くて、ながなが岸さ辿り着がんにぇんだど。
あど、お札はねぐなったべし、小坊主は、そのうぢ、
「助けでけろ、和尚様、助けでけろ」
って一心不乱で逃げだど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げで中に入れで助けでやったんだど。

とーびんと。

山形弁訳

『三枚のお札』
 むかし、むかし、
彼岸が来て、綺麗な姉様が寺参りに来たんだと。
あんまり綺麗な姉様だったものだから、寺の小坊主は、ボーっとなって、姉様の下駄隠したんだと。
帰りに姉様の下駄無いものだから、
「小坊っちゃ、私の下駄が無いのよ。後でお礼をしますから、下駄を探してくださいませんか」
って頼んだと。そうして、
「私は、山奥のほうに住んでるから、栗が沢山なったら、お礼に栗を食いに来てください」
って言って帰って行ったんだと。
  秋が来て、綺麗な姉様のことを思い出して、行きたくなって、和尚様に頼んだと。
和尚様は、
変な姉様だったけれど、大丈夫だろうかなぁ。
って思ったけど、仕方なく、
「有難い経文札三枚あげるから、困ったとき、危険な目に遭った時、お札に願いをかけて頼めよ」
って三枚のお札を貰って山奥に行ったんだと。
小坊主が姉様の家に着くと、姉様は洗濯していたんだと。
「よく来てくださいました。さぁさぁ上がってください」
「丁度、栗の盛りだから、洗濯終わるまで栗拾いしてきてください」
って言われて、裏山から籠いっぱい拾ってきたど。
そうして、煮たり、焼いたりして栗をいっぱいご馳走になったど。
「小坊っちゃ、日暮れてきたから、これから戻るのは大変でしょう。今夜は泊まっていったらいいんじゃないか」
って言われて、座敷に泊めてもらったど。
そして、夜中に、パチパチって火の燃える音して、目覚めたと。
そしたら、姉様は鬼になって火焚きしていたんだと。
「栗いっぱい食べた小坊主は、どんなにか、おいしいだろうなぁ」
ってブツブツ言ってたんだと。
  俺食われてしまう、逃げ出さなきゃならない。
と思案したんだと。
「姉様、俺、雪隠(便所)に行って来る」
って言ったんだと。
「それじゃあ、腰に綱付けて行け」
長い綱付けられてしまって、雪隠に行ったど。
そして考えたど。
雪隠の取っ手に一枚のお札を付けて、
「呼ばれたら、返事してくれ、頼む」
って言って逃げ出したど。
あんまり雪隠から戻って来ないものだから、姉様、鬼の顔を丸出しで、
「小坊主、小坊主、まだだかぁ」
って聞いたど。お札は、
<まだだぁ>
って返事したど。
その間、小坊主ぁ一心不乱に逃げたど。
それから又、
「小坊主、小坊主、まだだかぁ」
<まだだぁ>
三回も四回も五回も呼んだけれども、返事はあれど、さっぱり出てこなかったど。
おかしいなぁと思って行ってみたらば、綱とお札しかなかった。
「小坊主に逃げられた、まだその辺にいるだろう」
と、鬼ぁ小坊主を追っかけたど。
鬼の足ぁ早いものだから、たちまち追いつかれて、取って食われるとこだったと。
和尚様から貰った、有難い経文のお札を又一枚出して、
「大っきい大っきい砂山になれ」
ってお札投げてやったど。
そしたら、大っきな、とんでもなく大っきな砂山出来たど。
鬼が登ると、ズルズルズルズル崩れて、なかなか登れなかったど。
だけれども、鬼の足ぁ早いものだから、又追いつかれて、食われそうになったど。
もう一枚残っていたお札に、願いをこめて、
「大川になれー」
って叫んでお札投げてやったど。
堤のように大っきな川が流れ出したっけど。
又鬼は、流されそうになっても必死になって泳いできたんだけれども、流れが強くて、なかなか岸にたどり着けないんだと。
あと、お札は無くなったことだし、小坊主は、そのうち、
「助けてくれ、和尚様、助けてくれ」
って一心不乱で逃げたど。
そして、逃げ帰ってきた小坊主を和尚様は、釣り鐘下げて中に入れて助けてやったんだと。

とーびんと。