『サトリの化物』
前に、もう今はあんまり使わねげんど、カンジキ(雪の上の履物)だの、箕作りに使うなな、その木採んなに、山さ引っ込んで、何日も泊まって、材料採りしったもんであったけど。
ある秋の日短ぐなったころ、あるカンジキの木採りが、山さ引っこんで一生懸命カンジキの木採って、ぎいっと曲げて、拵(こしゃ)えがだしったった。
ほうして夕方なったがらどて、持って行った餅でも焙って、夕飯の代わりにすっかなぁなて、餅焙りしったけど。
ほうして、傍らさ、一生懸命曲げたカンジキの元の木、囲炉裏の端さ乾して。
ほしたば、丁度ええぐ餅焼げたころな、小屋の入口そっとあけで、大きな男が髭ぼうぼうどしたな入って来て、
「あら、おっかねごどなぁ、何だごと、人の家さ黙って入ってきて・・・」
て、カンジキ拵えの親分は心で思ってだうち、
「こりゃこりゃ、何だごと、おっかねごど、黙ってのそっと入って来たど、今思ったべ」
「おっかねごどなぁ、これがサトリつうもんだべなぁ」
て思ったど。
「おっかねごどなぁ、これぁサトリつうもんだべて、今思ったべ、親分」
サトリざぁ、人の思ってだごど、かまわず悟んのだど。
思ってだごどぁ、まっすぐ当でられんなだど。
「どれぁ、んじゃ、餅一つごっつぉなっかなぁ」
なて、焙ってだ餅、端っこの餅から、むしゃらむしゃらて、親分食うど思った餅、ひとワタシ全部食って、
「どれ、親分、いまひとワタシ出してかせろ」
「はて、明日の食うなもねぐなんべな」
と思って、また焙ってだら、むしゃらむしゃら、まだ食い始めた。
「よーし、こんなごしゃげる、おもしゃぐねぇごと。こんど燃え柴でも顔さくっつけっじゃえな」
なてごしゃいでいだけど。
「親分、ごしゃげっこと。燃え柴、顔さつけでけんなねて思ってんべ」
いや、おっかなくて、何でも思ったごど悟るもんだから、ぶるぶるていたけども。
ほうしたらば、そのうぢカンジキぁ拵ってだな焼げで、ひとりではじげで、バーンて山男のサトリの顔面さはじげだど。
ほしたらサトリは、
「いやいや、おっかねごどおっかねごど、人間どいうもの、何だがさっぱりわがんね。さっぱり思ってねで、一人でこんなごどするもんだ。いや、人間はおっかね」
なて、サトリ逃げで行ったど。
サトリざぁ、おっかねもんで、人間思ったごど、すぐ悟ってしまうんだど。
んだげんど、人間ざぁ、こんど自分思っていねごどで、顔、はじがっじゃ。
それがらは出ねぐなったし、山で仕事、小屋掛けですっどぎ、必ず入口さ輪ッか拵ったのぶら下げどぐど、魔除けになったもんだけど。
どんびんと。