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『しらみの質入れ』

 むがしむがし、ある処さ、佐兵どいう正直者いだっけど。
 ある日、旦那様がらどんぶぐ貰ったんだど。
ほうして、家さ帰ったど。
ほしたら、隣の家の童子、腹痛っぐなって、薬も買わんにぇくて困ってだっけど。
んだがら佐兵は、貰ったばっかりのどんぶぐ持って質屋さ行ったんだど。
 ほしたら、質屋の番頭出てきて、
「佐兵どん、今日は何の質入れだべが」
「隣の童子、腹やめして苦しんでだんよ、腹薬買うがら、二両貸してけぇんにぇが」
「ほんじゃ質札さ、どんぶぐ・・・。エヤエヤ虱(しらみ)二升ど書いどぐ」
と言われて、二両借りできて、腹薬買って行ったど。
 ところが昼過ぎに、佐兵は金持ってきて、
「番頭さん、寒ぐなってきたがら、朝質入れしたどんぶぐ貰いさ来た」
と、二両さ利息つけで、番頭の目の前さ並べたど。
「佐兵どんも金回りいぐなったなぁ、ほんじゃ質出してくる」
と朝入れたどんぶぐ持ってきたど。
 佐兵はどんぶぐと質札見くらべで、
「番頭さん番頭さん、なんだが足んにぇものあるみでだ」
「今朝質に入れたのはどんぶぐだべ」
「イヤ虱二升ども書いである」
「それは冗談で書いだもんだ」
「虱二升ど書いであるんだがら、虱も返して貰わねど、質屋は嘘言ったごとになるんでねぇが」
 番頭がなんと言っても駄目なもんだがら、奥がら質屋の旦那様どおかみさんも出てきたど。
「これはこれは、誰に何言わっちぇも俺ぁ生きた虱二升貰ってがんなね」
ど言い張るもんだがら、質屋の旦那様も困ってしまってはぁ、
「番頭の過ちは、我の過ち、貧乏人を馬鹿にした番頭も悪い、よおぐ教ぇどぐがら、堪忍してけろ」
ど頭下げられで、酒二升貰って帰ってきたどいうごどだ。

 貧乏でもおんなじ人間だ。

 んだがらな、どんな人だって決して馬鹿にしたり、見下げだりしてはなんねえもんだど。

 とーびんと。

山形弁訳

『しらみの質入れ』
 むかしむかし、ある処に佐兵という正直者がいました。
 ある日、旦那様からどんぶくを貰ったそうな。
そうして、家に帰ったんだと。
そしたら、隣の家の子供、腹が痛くなって、薬も買えずに困っていたんだと。
だから、佐兵は、貰ったばかりのどんぶくを持って質屋に行ったんだと。
  そしたら、質屋の番頭出てきて、
「佐兵どん、今日は何の質入れだい」
「隣の子供、腹痛くて苦しんでいるのよ、二両貸してもらえないか」
「それじゃあ、質札に、どんぶく・・・。エヤエヤ虱(しらみ)二升と書いとく」
と言われて、二両借りてきて、腹薬買って行ったんだと。
  ところが昼過ぎに、佐兵は金を持ってきて、
「番頭さん、寒くなってきたから、朝質入れしたどんぶく貰いに来た」
と二両に利子をつけて、番頭の目の前に並べたんだと。
「佐兵どんも金回りが良くなったなぁ、それじゃあ出してくる」
と朝入れたどんぶく持ってきたんだと。
  佐兵はどんぶくと質札を見くらべて、
「番頭さん番頭さん、なんだか足りないものがあるみたいだ」
「今朝質に入れたのはどんぶくだろう」
「いや虱二升とも書いてある」
「それは冗談で書いたもんだ」
「虱二升と書いてあるんだから、虱も返してもらわないと、質屋は嘘を言った事になるんじゃないか」
 番頭が何を言っても駄目なものだから、奥から質屋の旦那様とおかみさんも出てきたんだと。
「これはこれは、誰に何を言われても、俺は生きた虱二升貰って帰らなきゃなんない」
と言い張るものだから、質屋の旦那様も困って、
「番頭の過ちは、我の過ち、貧乏人を馬鹿にした番頭も悪い、よく言い聞かせるから、堪忍してくれ」
と頭下げられて、酒二升貰って帰ってきたということだ。

  貧乏でも同じ人間だ。

だから、どんな人だって決して馬鹿にしたり、見下げたりしてはならないものなんだと。

どんびんと。