『炭焼き吉次』
むかし、奥州さ炭焼き吉次っていう名前の者いだっけど。
そごさ、京都がらお姫様みでな人来て、
「おれどご、おかたにしておぐやい。おれな、清水の観音さまがら、奥州さ行ぐど、炭焼き吉次っていう者いだがら、その人のおかたにして貰えって、言い付けらっちぇ来たなだ。どうがおかたにしておぐやい。」
ほして、家さ寄ってみだらば、何にもね、いま食うものもねぇような、貧乏だったんだっけど。
「ないだべ、ほんじゃよ旦那さま、町さ行って、これで何が買って来てけろ」
って大判・小判ふたっつ預げだんだど。
「これで何が買われんなが」
ほうして、大判・小判二つたがって町さ行ぐどきに、沼の脇通ったらば、鴨二羽ばり浮んでいだっけども。
それ見で吉次は、
「よし、石ぶつけで獲ってけんべ」
ど思って、石探したごんだど。
んだげんど、あんまりいい石ねがったがら、大判をパーッと投げだど。
んだげんど、ジャボンって鴨さは当だんねがったど。
「ごしゃげっこど」
って言って、いま一つ持ってだったがら、またパーッってぶん投げでやったど。
んだげんど、これも当だんねがったんだど。結局、鴨獲らんにぇで、しかだねぐ、帰ってきたんだども。
「旦那さま、旦那さま、何がいっぱい買ってきたが」
「ああ、何も買って来ね。鴨獲っと思ってぶん投げだげんど、鴨さ当だんねがった」て言うたど。
「何だ、旦那さま、旦那さま、あれ大判・小判ていうものでよ、あれあれば、旦那さま背負わんにぇほど、いっぱい買われんなだに、それどご石の代わりに投げるなて何考えったなだ」
「ほだいに、石投げだぐらいで、ごしゃぐごどあんめ。あげな石なて、おら家の炭小屋さ行ってみろ。灰の中さ、いっぺごろごろしったがら」
そして、おかたどご炭小屋させでったど、そしたら灰の中さ金の塊ぁいっぺあったど。
奥州ざぁ、むがしがら、金の出っとごで、竃さ灰かげだり、土かげだりすっど、みな金になってしまうんだど。
「いや、旦那さま、これは大したもんだ。これ京都さ持ってっておぐやんねが」
ほうして、それ牛の背中さのせで、商売に奥州がら京都さ行き帰りして、炭焼き吉次はお金持ちになったんだど。
どんびんと。