『玉虫沼』
むがしむがし、山野辺の城さ、玉虫という美しい娘がいだったんだど。
玉虫は、朝から晩まで働ぐしで、よく気つくし、ほんにいい娘だったんだど。
城で一番評判だったなは、玉虫の炊ぐ飯で、ほんにうまい特別なものだったんだど。
ある日、別の女中が、炊ぎ方の秘密見でやんべど思って、釜の蓋、開げでしまったんだど。
ほしたら、釜の蓋開げだ女中は、尻もちつぐぐらい魂消だんだど。
釜の中さは小さな蛇がとぐろ巻いで座ってだったんだども。
その蛇は、玉虫が神様に貰ったもので、その蛇を釜さ入っちぇ炊ぐど、ほんにうまい飯になっかったんだど。
んだげんど、蛇どご釜さ入っちぇ炊いったなて噂は、あっという間に城中さ広まったんだどはぁ。
ほしてとうとう、月の澄んだ夜に城を抜け出した玉虫は、山の中の沼に身を投げでしまったなだど。今も月の澄んだ夜になっと、沼の中に玉虫の姿が見えるごどがあるんだど。
ほして、玉虫が沼さ身を投げだ、八月十三日には必ず雨が降るんだど。この雨は「玉虫の涙雨」って呼ばっちぇだんだど。
どーびんと。