『豆腐田楽と和尚さま』
あるどごの山の方さお寺があって、そごに和尚と小僧さんがお勤めしったっけど。
秋も遅ぐなって、夜になっど少し寒ぐなって、
「ああ、小僧、小僧、ありゃ、こういう寒いどぎなぁ、田楽豆腐でもこしゃって食ったら、何ぼが温ったまってえがんべなぁ」
「んだなっす、和尚さま」
「ほんじゃよ、小僧、おれ炭おごしたり、味噌すったりして、こしゃっておっから、お前、村さ行って豆腐買って来い」
なて。
ほうして、お互いに半分して、小僧は豆腐買いに行って来る、和尚さまは串こしゃったり、田楽味噌をこしゃったりして、ほうして小僧帰って来てがら、(豆腐、今みでにやっこぐねくて、ちぃと押すどはぁ水出ではぁ固くて切れるような豆腐だった-昔は-。)それを拍子木に切って、こんど、それどご串さ刺して、囲炉裏のどごぐるっと、いっぺ味噌塗って焙り方はじめだずも。
ほして、プンプン、プンプン、味噌の匂いしてきて、
「はぁなぁ、小僧ど半分ずづ食うなは、癪でいだましごでなぁ、おれ一つゆっくり食ってみっちぇなぁ」
なて、和尚さまよ、
「いや、小僧よ、あのなぁ、豆腐食うによ、何かしゃべって、話の中さ、〈串〉っていうなを入れで、それを串で数えだだけ食うごどにしたら、ええ、んねが」
「ほだな、和尚さま、何が考えだもな」
「これ、こういうふうにすんなよ。小僧。ええや、おら家の小僧、言うごど聞がねくて、憎し(二串)憎し(二串)てな、こうやってニ串ずつ二回食(か)れんなだぞ」
なて和尚さま。
「見本だぞ、これ」
なて、和尚さま食ったずも。
「ははぁ、和尚さま、こいつぁ考えっだな、こりゃ」
なて。
「あのなぁ、和尚さまよ、いや、寺の小僧、賢くて、得し(十串)るも、なし」
て、その小僧、十串食った。
いや、四串和尚食ったら、こんどぁ小僧に十串も食(か)っじゃもんだ。いや和尚さま、気揉めで、はでなぁなて、一生けんめい考えでっけんど、なかなか和尚さま、浮がんでこねじ、
「はぁ、和尚さま、気ィ揉んで、かえって分がんねぐなったな、こりゃ」
なて、小僧。
「ああ、和尚さま、よし、-お薬師堂のお薬師さま、よし・・・・・」
なて、八串と八串で十六串食った。
和尚さま、気揉めっけんど、ますます味付けらんねぐなってしまったのよ。
小僧は十六串食って、
「残りなんぼあんべなぁ」
なて、
「ははぁ、そうか、和尚さま、よし、いやいや、こっちの家のお寺、貧乏して、始終苦してるもなし」
て残りみな食ったど。
「さぁ、なんぼ食ったべな。最初憎し、憎しで四串たべ、さいつぁ、小僧は賢くて得しるって十串食ったべ。そいづさ、お薬師堂のお薬師さま、八串に八串で十六串だべ。その後、小僧ぁお寺の何時も貧乏で、始終苦してるもなぁなて、残り全部食ったど」
「さて、何本食ったべがな。又、全部で何本あったべがなぁ、分がっか。なかなかわがんねべ、間違うどごは、始終苦しで四十串で、ちょっとしたごどで間違うもんだ。全部で三十串足す四十串で七十串あったなだ」
ほだがら、人の話は、この人何語んなだべなぁって、よっく考えながら聞ぐもんだど。
とーびんと。