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『唐辛子売りと柿売り』

 むがあし、むがし、
 爺さまど婆さま暮らしたっけど、
 晦(つめ)もつまってはぁ、歳も暮れるっていうどぎ、
「じいさん、正月の準備もさんなねし、唐辛子でも売って来たらええんねが。寒いどぎ、皆いっぺ。」
 ほうして、じいさんは、唐辛子いっぺ背負って、
「漬物さ必要な唐辛子、いらねが。唐辛子、いらねが」
て、唐辛子売り行ったけど。
 しばらぐしたら、雪降ってきて、寒ぐなってきたもんだがら、誰も買う人いねぐなったど。
ほうしたら、向ごうがら、
「柿、いらねが。柿、いらねが」
て、柿売り来っけども。
 ほうして、二人ばったりあって、
「なじょだい、売れ具合ぁ」
「いや、今日はさっぱり売んにぇなよ」
「腹減ってきたしなぁ、まず柿屋、一つ、柿ど唐辛子、交換してけんにぇが」
「いや、柿ど唐辛子なて、交換さんにぇ。唐辛子食ったて、腹くっちぐなんねもんだも。柿は、食えば腹くっちぐなるもんだも」
「いや、そんなごど言わねでよ、とっかえでけんにぇが」
 結局、柿屋は意地悪くて、さっぱり柿ど交換してけんにぇがったなだど。
しょうがねがら、唐辛子屋、唐辛子どご、ぎいっと揉んで、雪さ混ぜで、雪ど一緒に食って、腹へったな紛らせだんだど。
 段々夜更けできたらば、柿屋、冷えできてはぁ、いや寒くて寒くて、
「いや、唐辛子屋よ、俺さ、南蛮少し分げでけろ。寒ぐなって来たがらよ」
「やんだ、お前、さっき意地悪くて、柿とっかえでけろって言っても、とっかえでけんにぇがったべ」
 ほうしたら、お互いに意地張って、交換したりも、売ったりも買ったりもしねで、夜更けできて、柿屋はとうとう凍え死んでしまったなだど。
 こんどこっちの唐辛子屋、体、ポッカポカ温まってきてはぁ、次の朝、皆に見つけられるまで、腹へったげんども、温かくて、助けらっちゃんだと。
 ほだがら、今も、漬物すっとぎどが、茄子みでに体冷えるもんさ、唐辛子入れんなは、体冷えねようにするためなんだど。

とーびんと。

山形弁訳

『唐辛子売りと柿売り』
 むかしむかし、
 爺さまと婆さまが暮らしてたんだと。
 晦(つめ)もつまって、歳も暮れるというときに
「じいさん、正月の準備もしなくてはならないし、唐辛子でも売ってきたらいいんではないか。寒いときは、皆必要だろうから」
 ほうして、じいさんは、唐辛子いっぱい背負って、
「漬物に必要な唐辛子、いりませんか。唐辛子、いりませんか」
て、唐辛子売りに行ったんだと。
 しばらくしたら、雪が降ってきて、寒くなってきたものだから、誰も買う人がいなくなったんだと。
そうしたら、向こうから、
「柿いりませんか。柿、いりませんか」
て、柿売りが来たんだと。
 そうして、二人はばったり会って、
「どうだい、売れ具合は」
「いや、今日はさっぱり売れないのよ」
「腹減ってきたしなぁ、まず柿屋、一つ、柿と唐辛子、交換してくれないか」
「いや、柿と唐辛子なんて、交換できない。唐辛子食ったって、腹いっぱいにならないものだもの。柿は食えば腹いっぱいになるものだもの」
「いや、そんなこと言わないでよ、とりかえてくれないか」
 結局、柿屋は意地悪くて、さっぱり柿と交換してくれなかったんだと。
しょうがないから、唐辛子屋は、唐辛子をぎぃっと揉んで、雪に混ぜて、雪と一緒に食っては、腹へったのを紛らわせていたんだと。
 段々、夜が更けてきたら、柿屋、冷えてきて、いや寒くて寒くて、
「いや、唐辛子屋よ、俺に、南蛮少し分けてくれ、寒くなってきたから」
「嫌だ、お前、さっき意地悪くて、柿ととりかえてくれって言っても、とりかえてくれなかっただろう」
 そうしたら、お互いに意地を張って、交換したりも、売ったりも買ったりもしないで、夜が更けてきて、柿屋はとうとう凍え死んでしまったんだと。
 こんどこっちの唐辛子屋は、体がポカポカ温まってきて、次の朝、皆に見つけられるまで、腹はへっているけれども、温かくて助けられたんだと。
 だからなぁ、今も、漬物するときとかには、茄子みたいに体の冷えるものに、唐辛子入れたりするのは、体が冷えないようにするためなんだと。  とーびんと。