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『殿様の一文銭』

 むがしむがし、あるどさ殿様いだったど。
 ある日、殿様がタカ狩りしったどぎに、川さ一文銭どご落どしてしまったんだど。
 川さ流さんにぇうぢにって思って、わらわらて、探したげんども、見つけらんにぇがったど。
 んだげんど、殿様は思案して、五人の人足頼んだごんだど。
 ほうして、人足さ向がって、
「今しがだ、一文銭どごこの川さ落どしてしまった。一人だど、なんぼ、たねでも見つけらんにぇがったなだ。んだがら、銭一文ずつやっから、拾ってけろ」
と頼んだごんだど。
 一文銭探すなさ、五文も出すなて、変わった殿様だなぁ、なて思いながらも、殿様の頼みだし、五人の人足は、川で一文銭探し始めだなだど。
 ほだげんど、一文銭見つけらんにぇまま、日暮れできてはぁ、
「困ったごど、なじょすっぺな」
なて、話しったけど。ほして、とうとう日暮れでしまってはぁ、人足の一人が、
「もう見えねなぁ、松明つけでみっか」
って、松明つけで探すごどにしたんだど。
 ほしたら、松明の灯りのお陰で、一文銭が光ったもんだがら、すぐに見つけらっちゃんだど。
五人は喜んではぁ、わらわらて、殿様のどごさ持ってったんだど。
ほして、
「殿様、一文銭見つけらっちゃなは、いがったげんど、なしてこの一文銭探すなさ五文も出してけっちゃなやっし。よっぽど大事な一文銭なんだがっし」
って聞いだんだど。
 ほしたら殿様は、
「この一文銭のために、探してけっちゃ者さ一文ずつやることがでぎた。探してけっちゃ者がその一文銭で少しでも楽になればなぁて思う。この一文銭は、これを探してけっちゃ者らさ少しばかりの豊かさを与えた大事な一文銭だど、我は思うのだが、どうだべが」
って言ったごんだど。
 皆、民を思う殿様の心に感心したんだど。
 どーびんと。

山形弁訳

『殿様の一文銭』
 むかしむかし、あるところに殿様がいたんだと。
 ある日、殿様がタカ狩りをしていたときに、川に一文銭を落としてしまったんだと。
 川に流されないうちにと思って、急いで探したんだけれども、見つけられなかったんだと。
 けれど、殿様は思案して、五人の人足を頼んだんだと。
 そして、人足に向かって、
「今さっき、一文銭をこの川に落としてしまった。一人だと、いくら探しても見つけることができなかった。だから、銭を一文ずつやるから、ひろってくれないか」
と頼んだのだと。
 一文銭探すのに、五文も出すなんて、変わった殿様だなぁ、と思いながらも、殿様の頼みだし、五人の人足は、川で一文銭を探し始めたんだと。
 けれども、一文銭を見つけられないまま、日が暮れて来て、
「困ったなぁ、どうしよう」
なんて話していたんだと。そして、とうとう日が暮れてしまって、人足の一人が、
「もう見えないなぁ、松明つけてみるか」
って、松明つけて探すことにしたんだと。
 そしたら。松明の明かりのお陰で、一文銭が光ったものだから、すぐに見つけられたんだと。
五人は喜んで、急いで、殿様のところに持って行ったんだと。
そして、
「殿様、一文銭見つけられたのは、良かったんだけれども、どうして、この一文銭探すのに五文も出してくれたんでしょうか。よっぽど大事な一文銭なんですか」
って聞いたんだと。
 そしたら殿様は、
「この一文銭のために、探してくれた者に一文ずつやることができた。探してくれた者がその一文銭で少しでも楽になればなぁって思う。この一文銭は、これを探してくれた者たちに少しばかりの豊かさを与えた大事な一文銭だと、我は思うのだが、どうだろう」
って言ったんだと。
 皆、民を思う殿様の心に感心したんだと。
 どーびんと。