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『うば捨て山』(年寄りの知恵)

 むがし、むがし、
ある国さ親孝行の息子いだっけど。
その国は貧乏なもんだがら、
【六十二歳になった年寄りは、山さ捨てるべし】
という掟があったんだと。
孝行息子は、
「親が六十二になった。国の掟さは逆らわんにぇ」
といって、泣ぐ泣ぐ親どこ背負って、山さ登ったんだど。
そんどぎ親、道々木折ってなげでんなだど。
孝行息子が、
「何しったんや」
って聞いだら、
「お前帰っとぎ、道さ迷うど困んべど思ってマッタ木折って、道々さなげったんだ、家さ帰っとぎマッタ木辿ってげよ、マッタ木辿ってげば迷わねがらな」
なて言ったっけど。
孝行息子はそれ聞いで、
「なんぼ年とったたて、親どご山さは捨てらんにぇ」
って言って、親どご背負ったまま家さ戻って来たけど。
「さでさで、殿様にごしゃがれる。どさ住まわせだらいがんべな」
と思案しだど。
そして、親どご穴蔵さ住まわせだど。
それがらある時、 大っきな隣国の殿様がら戦(いくさ)吹っかげらっちぇきたど。
「戦すんなやんだどぎ、灰(あぐ)で縄なって持ってこい」
って言わっちぇ、殿様困ってしまってはぁ、
「灰で縄なわれる人いだら申し出よ」
と、お触れ出したんだど。
孝行息子も思案して、穴蔵の親さ聞いでみだど。
ほしたら、
「そげなごど、じょさねごで。藁で縄なって、塩水さつけで焼げば、灰の縄出来っごでぇ」
と教えだんだと。
そして縄なって塩水さつけで焼いだど。
そしたら灰の縄出来で、殿様さ持ってたど。
殿様は
「おお、よぐ出来だ」
って喜んで、隣国の殿様さ持って行ったど。
ほしたら今度は、
「この大きな石の小さな穴に、糸を通してみよ」
って言わっちぇ、また殿様困って、国中さお触れ出したど。
「この大っきな石の小っちゃい穴さ糸どご通した者さ褒美やる」
と。
孝行息子は穴蔵の親さ聞いだど。
ほしたら、
「大っきな石の片側さ味噌塗って、反対側さ蟻コ置いで、その蟻の腰さ糸付げどげば、穴がら味噌の匂いしてくんも、蟻は穴通って味噌のほうさ行んこでぇ。ほしたら、石さ糸通されっごでぇ」
と教えられで、蟻とってきて言わっちゃ通りやってみだら、大っきな石の針の穴ほどの小っちゃな穴さ糸通ったけど。
殿様は喜んで、隣国の殿様さ持って行ったど。
ほしたら又、
「打たずでも鳴る太鼓を持ってまいれ」
って言わっちぇ、殿様ほとほと困ってはぁ、又お触れ出したど。
孝行息子はまた親さ聞いだど。
ほしたら、
「太鼓の中さ、熊蜂入れっと打だねだって鳴っごでぇ」
と言わっちぇ、その通りにして持って行ったど。
そしてその太鼓、動がす度に鳴るもんだがら、殿様も大変喜んで、隣国の殿様さ、差し出したど。
隣国の殿様、たまげではぁ、
「これは珍しい」
って言って中あげでみだらば、中がら熊蜂出できで、殿様も奥方も家来も、皆熊蜂にささっちゃど。
小っちゃい国だげんども知恵者が大勢いる国だがら、戦してもかなわねなぁと思って、戦ねぐなったど。
孝行息子は殿様によばらっちぇ、
「褒美やっがら何がいい」
って言われで、
「申し訳ございません。実は六十二になった親を、山に捨てることが出来なくて、穴蔵に隠れ住まいさせでござる。その親に聞いだごどだっし、ご勘弁を・・・」
って言ったど。
そしたら殿様、
「おお、年寄りとはそんなに知恵者だったのが」
と言って、
それがらどいうもの、年寄りを山に捨てるどごろが、年寄りを大切に大切にしたんだど。
年寄りは、いい知恵いっぱい知ってだがら、決して粗末にするもんでねぇ。
とーびんと。

山形弁訳

『うば捨て山』(年寄りの知恵)
 むかし、むかし、
ある国に親孝行の息子がいました。
その国は貧乏なので、
【六十ニ歳になった年寄りは山に捨てるべし】
という掟があったそうな。
孝行息子は、
「親が六十ニになった。国の掟には逆らえない」
と言って、泣く泣く親を背負って、山に登ったんだと。
そのとき親、道々、木折って捨ててるんだと。
孝行息子が、
「何してるの」
って聞いたら、
「お前が帰るとき、道に迷うと困るだろうと思ってマッタ木折って、道々に捨ててるんだ、家に帰るとき、マッタ木辿って行くんだぞ、マッタ木辿って行けば迷わないからな」
なて言ったっけと。
孝行息子はそれ聞いて、
「いくら年とったとしても、親を山には捨てられない」
って言って、親を背負ったまま家に戻って来たそうな。
「さてさて、殿様に怒られる。どこに住まわせたらいいんだろうか」
と思案したんだと。
そして、親を穴蔵に住まわせたんだと。
それからある時、大きな隣国の殿様から戦(いくさ)を吹っかけられて来たんだと。
「戦するのが嫌なときは、灰で縄なって持って来い」
って言われて、殿様は困ってしまって、
「灰で縄をなうことのできる者がいたら申し出よ」
とお触れを出したんだと。
孝行息子も思案して、穴蔵の親に聞いてみたんだと。
そしたら、
「そんなこと、簡単だ。藁(わら)で縄なって、塩水につけて焼けば、灰の縄できるだろう」
と教えたんだと。
そして縄なって塩水につけて焼いたんだと。
そしたら灰の縄出来て、殿様に持って行ったそうな。
殿様は、
「おお、よく出来た」
って喜んで、隣国の殿様に持って行ったんだと。
そうしたら今度は、
「この大きな石の小さな穴に、糸を通してみよ」
と言われて、また殿様は困って、国中にお触れを出したんだと。
「この大きな石の小さな穴に糸を通した者に褒美をやる」
と。
孝行息子は穴蔵の親に聞いたんだと。
そしたら、
「大きな石の片側に味噌を塗って、反対側に蟻んこを置いて、その蟻の腰に糸を付けておけば、穴から味噌の匂いがしてくるから、蟻は穴を通って味噌のほうに行くだろう。そしたら、石に糸を通すことが出来るだろう」
と教えられたので、蟻とってきて言われたとおりやってみたら、大きな石の針の穴ほどの小さな穴に糸が通ったそうな。
殿様は喜んで、隣国の殿様に持って行ったんだと。
そしたら又、
「打たずでも鳴る太鼓を持ってまいれ」
って言われて、殿様はほとほと困って、又お触れを出したんだと。
孝行息子はまた親に聞いたんだと。
そしたら、
「太鼓の中に、熊蜂入れると打たなくても鳴るだろう」
と言われて、その通りにして持って行ったんだと。
そして、その太鼓は動かす度に鳴るものだから、殿様も大変喜んで、隣国の殿様に、差し出したんだと。
隣国の殿様、びっくりしてはぁ、
「これは珍しい」
って言って中を開けてみたら、中から熊蜂が出てきて、殿様も奥方も家来も、皆熊蜂に刺されたんだと。
小さい国だけど知恵者が大勢いる国だから、戦してもかなわないなぁと思って、戦はなくなったそうな。
孝行息子は殿様に呼ばれて、
「褒美をやるから何がいい」
って言われて、
「申し訳ございません。実は六十ニになった親を、山に捨てることが出来なくて、穴蔵に隠れ住まいさせております。その親に聞いたことです、ご勘弁を・・・」
って言ったんだと。
そしたら殿様、
「おお、年寄りとはそんなに知恵者だったのか」
と言って、
それからというもの、年寄りを山に捨てるどころか、年寄りを大切に大切にしたんだと。
年寄りは、いい知恵いっぱい知っているから、決して粗末にするものではないぞ。
とーびんと。