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『上杉様の鴨とり』

 むがしむがしごどだっけど。
 米沢さよ、一人の鴨とりの名人いだったど。
 上杉の殿様は、まだ鴨とりどご見だごどねがったもんだがら、
「鴨とりの名人芸ってな見でみっちぇもんだなぁ」
て家来さ頼んだんだど。
ほうして、家来は鴨とり名人どごさ行って、
「上杉の殿様が、名人の鴨とりみっちぇって申しておるので、お願いさ来もうした」
と頼んだんだと。
その名人は、すなし者だったもんだがら、
「俺の言うごど聞がれっこんじゃ、いがんべ」
て言って、
「鴨とりっていうなはよ、声出してわりもんなんだ、
 俺ど一緒に絶対しゃべんねごど、約束すっこんじゃ、見せっこで」
て言わっちゃんだがら、家来は、
「約束すっから見せで欲しい」
というごどになって、上杉の殿様は川原を名人の後さついで行ぐごどになったんだそうだ。
 その足の早い名人さ、
「ちょっと待て」
て言うがど思ったら、
「殿様、鴨とりで声を出してはなりませぬ、そーっとついで来て下され」
て言わっちぇ、しょうがねぐ殿様は口を閉じでついで行ったど。
 向こうの方さ鴨いだ気ぃして、上杉の殿様は、
「ああ、あそごさ鴨いだ・・」
て言うがど思ったらたら口さ手当でで
「シーッ、シーッ」
て言わっちぇ、
「ほだほだ、声出してはならぬなだな」
と思ったんだど。そうしたら向こうさ鴨いだげんども、鴨とり名人は、狙わねもんだがら、殿様は不思議に思って、
「なして、鴨を狙わぬのじゃ」
と、又声出しそうになったけど。
ほだげんども、しゃべってはならぬなだ、と思って、川原を這うようにしてして、名人の後がらついで行ったど。
 顔上げでみだらば、鴨いっぺいだっけもんだがら、名人は、さらにのたばって、尻上げだっけんだど。
 ほうしたら、上杉様の鼻っぱしで、
「ブーッ、ブーッ」
って屁ぇたっちぇしまったごんだじも。
「これ無礼者」
て言うがど思ったら、又、
「シーッシーッシーッ」
て言わっちゃもんだがら、約束守ったんだど。
「ほら鴨いだ。こごで声出したら、鴨逃げでしまう」
と、鴨とるまで、又じいーっと我慢させらっちゃんだど。
 あどで鴨とり名人は、皆にきがっちぇ、
「俺ぁ婆さまど寝だらば
寝床ん中では屁三つ
殿様ん前では、ようようニつ」
と歌ったんだそうだ。
なかなかの名人だったという話。
 さすが上杉の殿様は、ごしゃぎもしねで、
「声出してはならぬと言われたが、我は気いもんでしまったなぁ」
と反省したごんだど。
 平民を思う、上杉の殿様も大した偉い殿様だったんだごでなぁ。
 とーびんと。

山形弁訳

『上杉様の鴨とり』
 むかしむかし、
 米沢に、一人の鴨とりの名人が居たんだと。
  上杉の殿様は、まだ鴨とりを見たことがなかったものだから、
「鴨とりの名人芸っていうものを見てみたいものだなぁ」
と家来に頼んだのだそうだ。
そうして、家来は鴨とりの名人のところに行って、
「上杉の殿様が、名人の鴨とりを見たいと申しておるので、お願いに来申した。」
と頼んだと。
その名人は、いたずら者だったものだから、
「俺の言うことを聞くのならいいだろう」
と言って、
「鴨とりというものは、声を出してはいけないものなんだ。俺と一緒に絶対喋らないことを約束するんなら、見せてもいい」
って言われたものだから、家来は、
「約束するから見せて欲しい」
と言うことになって、上杉の殿様は川原を名人の後についていくことになったんだと。
  その足の早い名人に、
「ちょっと待て」
と言おうと思ったら、
「殿様、鴨とりで声を出してはなりませぬ、そーっとついてきて下され」
と言われて、しょうがなく殿様は口を閉じてついていったんだと。
  向こうの方に鴨が居るような気がして、上杉の殿様は、
「ああ、あそこに鴨がいる・・」
と言おうかと思ったら口に手をあてて、
「シーッ、シーッ」
と言われて、
「そうだったそうだった、声を出してはならぬのだな」
と思ったんだと。そうしたら、向こうに鴨が居るのだけれども、鴨とりの名人はさっぱり狙うそぶりを見せないものだから、殿様は不思議に思って、
「どうして、鴨を狙わぬのじゃ」
と、又声出しそうになったんだと。
だけれども、喋ってはならぬのだ、と思って、川原を這うようにして、名人の後からついて行ったんだと。
  顔を上げてみたら、鴨がたくさん居たものだから、名人はさらに這いつくばって、尻を上げるような格好になったんだと。
  そしたら、上杉様の鼻っぱしで、
「ブーッ、ブーッ」
て屁を垂れてしまったんだそうだ。
「これ無礼者」
と言おうかと思ったら、又、
「シーッシーッシーッ」
と言われたものだから、約束守ったんだと。
「ほら鴨がいる。ここで声を出したら、鴨が逃げてしまう」
と、鴨をとるまで、又じいーっと我慢させられたんだと。
  あとで鴨とり名人は、皆に聞かれて、
「俺ぁ、婆さまど寝たなら
寝床ん中では屁三つ
殿様ん前では、ようよう二つ 」
と歌ったんだそうな。
なかなかの名人だったという話。
  さすが上杉の殿様は、怒りもせずに、
「声出してはならぬと言われたが、我は気を揉んでしまった」
と反省したのだそうだ。
  平民を思う、上杉の殿様も大した偉い殿様だったんだだろうなぁ。
  とーびんと。