『雪女郎』
吹雪で吹雪で、目もあてらんね吹雪の晩であったど。
ある一軒の家さ、
「こんばんわ、こんばんわ、あの、旅の女だげんど、今晩一晩泊めていただけねべか」
その家の親父、開けてみたらば、若い女立っていだけずも、ほうして見っど、顔付きあんまり赤味もさしていね、若い元気のねえ女だっけど。
「ああ、泊めだて、これ費用にもなんねな」
その家の親父は欲深くて、
「あのな、せっかくだげんど、おら家(え)に病人いるもんだから、泊めらんねなよ」なて、
「ほだったべか」
「あの、隣の家さ行って頼んでみてごんざぇ」
なて言うもんだから、こんど隣の家さ、とことこ、とことこ行って、
ちょぇっと離っだ家さ行って、
「こんばんわ、こんばんわ」
「はいはい」
なて、じさま出て来たけずも。
「あの、旅のもんだげんど、今晩一晩泊めていただがんねべが」
「いやいや、こんな吹くに、お前一人で大変であったべ。
まずまず雪入んねばりもえがんべがら、おら家(え)さ泊まってごんざぇ」
こころええぐ、そのじんつぁ泊めで呉っじゃけずも。ばんつぁもいでなぁ、
「食うもの、みな食って、食い終わってはぁ、何もねえげんどもよ、
ちいと温まって休むどええごで」
娘は
「おしょうしな」
ていいながら、ありがたいんだか、ポタポタて涙流しながら、喜んでいたけずも。
「ほんじゃまず、布団さ入って休んで呉ろはぁ、まず」
なて、家さ入っで貰っただけでも、えがったもんだから、娘は床の中さ入って寝たずも。
次の日になったらば、じいさん、ばあさん起きてみだらば、いや、吹雪はピタリと止んでよ、青空も出てきて、
「今日はええ天気になンな、こりゃ。旅する娘、今日はお天気ええくて、
なんぼ喜んで行くべぁ、こりゃ。娘さんよ、まず起きやい。御飯も出っどこだし、起きやい。起きておくやい」
て言ったげんども、返事もしない。
「はて、奇態なもんだな、こりゃ」
なていだらば、布団、ぽこっとなっていっけんども、大きい音で呼ばっけんども、返事しね。
「悪れげんどもなぁ」
て、ひょいっとめくってみたら、娘いないし、寝た布団が、クチャクチャ濡っでだばりで、娘いねもんだけど、そいつが雪女郎ていうもんでな。
それから、隣の泊めて呉ね家では、貧乏になって、かっちゃまえになってはぁ、その家では親父は病気になるはぁ、その家はずっと病人絶えねでしまって、こっちの、泊めで呉っじゃ家のじんつぁとばんちゃは、安泰に夫婦して福しくなって、ええあんばいに暮らしたけど。
ほして、雪女郎ているのは、あっちこっち廻って、人の気持ちを試して歩くもんだけど。
どんびんと。