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『度胸だめし』

 むがしむがし、ある村の庄屋の娘が、
「婿貰うごんじゃ度胸のある婿もらいっちぇなあ」
なて話しったったなだど。
 ほうして、その娘さ婿来っこどになったなだど。
 ほだげんど、その婿は三日持だねで逃げでってしまったなだど。
 次に来た婿もその次に来た婿もすぐ逃げでしまうなだど。
「なんだべ、庄屋の娘はなにが病気でもあんなだべが」
って、みんな心配しったけど。ほしてある日、
「おれどご婿にしておごやぇ」
なて来たないだったど。
 ほして、御祝儀終えだ日だったど、夜中に娘が起ぎだして、外さ出で行くなだど。婿はどさ行ぐなが気になって、その後ついでったなだど。ほしたら、娘はスタスタスタスタって、墓場さ行ったなだど。何すんなが見ったったらば、昨日村で亡ぐなった人の墓の脇さ行って地面掘りはじめたなだど。しばらくしたら、良っくどは見えねげんど、何が出したんだど。
「はでなあ、何すんなだべ」
って思って見ったったら、なにがムシャムシャて食い始めだなだども。婿は、
「ははあ、こりゃ何かあんなだべなあ」
って思って、わらわら家さ帰って寝だなだど
 しばらくしても婿は逃げ出したりしねがったもんだがら、
「いや、婿さま、お前、この間、おれの後つけできて、おれしったごど見だんだべした。おっかねぐねえなが」
なて娘聞いだなだど。ほしたら婿は、
「ほだなあ、おっかねぐなねえなあ。ほだて、お前帰ってきてがら、おれ行って調べでみだらば、あれお菓子だったもの。お菓子食ってだな見だたて、おっかねぐなねえべした」
なて言うのだっけど。娘は、
「いや、よぐそこまで見でけっちゃもんだな。こういう婿いがったなだ」
 ほうして、婿はもう逃げ出すごどもねくて、庄屋はますます繁盛したなだど。
 どーびんと。

山形弁訳

『度胸だめし』
 むかしむかし、ある村の娘が、
「婿を貰うなら度胸のある婿をもらいたいなあ」
なんて話していたんだと。
 そして、その娘に婿が来ることになったのだと。
 だけども、その婿は三日持たずに逃げしまったのだと。
「なんだろうな、庄屋の娘は何か病気でもあるのだろうか」
って、みんなが心配してるんだっけど。そしてある日、
「おれを婿にしてくれませんか」
なんて来たのがいたんだと。
 そして、ご祝儀を終えた日だったど、夜中に娘が起きだして、外に出ていくのだと。婿は、どこに行くのか気になって、その後をついて行ったのだと。そしたら、娘はスタスタスタって、墓場に行ったのだと。何するのか見ていたら、昨日村で亡くなった子供の墓の脇に行って、地面を掘りはじめたんだと。しばらくしたら、良く見えないのだが、子供のようなものが出てきたんだと。
「はてさて、何してるんだろ」
と思って、見ていたら、何かムシャムシャ食べ始めたんだと。婿は、
「ははあ、これは何かあるんだな」
って思って、急いで家に帰って寝たんだと。
 しばらくしても婿は逃げ出したりしないものだから、
「いや、婿さま、お前、この間、おれの後をつけてきて、おれのしていたことを見ていたのだろ。怖くないのか」
なんて、娘が聞いたんだと。ほしたら婿は、
「そうだなあ。怖くはないなあ。だって、お前が帰ってきてから、おれ行って調べてみたら、あれお菓子だったもの。お菓子食ってるのを見たって、怖くはないなあ」
というのだっけど。娘は、
「いや、よくそこまで見てくれたものだなあ。こういう婿が良かったんだ」
 そして、婿はもう逃げ出すこともなくて、庄屋はますます繁盛したのだと。

 どーびんと。