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『笛吹き沼』

 むがしむがし、最上川沿いの村近ぐさ沼あって、そご通りかがった侍が、近ぐの岩さ腰掛げで笛吹いったんだっけど。
 美しい笛の音で、辺り一面に澄み渡るような笛の音だったんだど。
 侍が、その笛吹ぎ終わったころ、いづの間にが、美しい娘立ってだったど。
 ほして、もう一回笛吹いでけろって頼むなだっけど。
 もう一回、侍が笛吹ぐど、娘は涙を流しながら、聞いったったど。
 娘は、笛吹ぎ終わった侍さ、
「実はおれ、この沼の主だげんど、おれどずっと一緒にこさ居でけんにぇが」
って言うのだっけど。
 ほだげんど、主命で京さ上んなね侍は、
「来年に帰って来っから、それまで待ってでけんにぇが」
って言って京さ上ったんだど。
 それがら、1年後、侍は役目終えで戻っこどになったなだど。
 ほだげんど、侍は、娘さは会わねように、そのまま最上川下っこどにしたんだど。
 侍の乗った舟は川の流れさのって進んでだったんだげんど、沼の近ぐさ来たら舟が止まって動がねぐなったなだど。
 舟の客らもたまげで騒ぎ始めだんだど。ほして川底のぞいだ船頭が、
「誰が沼の主に見込まっちゃ人いだみでだ。その人が舟降りねど舟進まねな」
って言うのだっけど。
 もう侍は覚悟して川さ飛び込んだなだど。ほしたら、侍は沼の方さ消えでったなだど。
 それがら月夜の晩になっと沼の底がら美しい笛の音が聞こえるようになって、この沼は「笛吹き沼」って呼ばれるようになったなど。

 どーびんと。

山形弁訳

『笛吹き沼』
 むかしむかし、最上川沿いの村の近くに沼があって、そこを通りかかった侍が、近くの岩に腰かけて笛を吹いていたんだと。
 美しい笛の音で、辺り一面に澄み渡るような笛の音だったんだと。
 侍がその笛を吹き終わったころ、いつの間にか、美しい娘が立っていたんだと。
 そして、もう一回笛吹いてくれって頼むのだっけど。
 もう一回、侍が笛を吹くと、娘は涙を流しながら聞いていたんだど。
 娘は笛を吹き終わった侍に、
「実は、私はこの沼の主なのだけれど、私とずっと一緒にここに居てくれないか」
って言うのだっけど。
 けれども、主命で京に上らなければならない侍は、
「来年に帰ってくるから、それまで待っててくれないか」
って言って京に上ったんだと。
 それから、1年後、侍は役目を終えて戻ることになったのだと。
 けれども、侍は、娘には会わないように、そのまま最上川を下ることにしたんだと。
 侍の乗った船は川の流れに乗って進んでいたんだけれど、沼の近くに来たら舟が止まって動かなくなったのだと。
 舟の客たちもびっくりして騒ぎ始めたんだと。そして川底を覗いていた船頭が、
「誰か沼の主に見込まれた人がいるみたいだ。その人が舟を降りないと舟は進めないな」
って言うのだっけど。
 もう侍は覚悟をして、川に飛び込んだのだと。そしたら侍は沼の方に消えて行ったのだと。
 それから月夜の晩になると、沼の底から美しい笛の音が聞こえるようになって、この沼は「笛吹き沼」と呼ばれるようになったのだと。
 どーびんと。