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『半ごろしの御馳走』

 むがしむがし、あるお侍さまが峠を越えで米沢あだりまで来たどぎ、日が落ぢで暗ぐなってきたもんだがら、古ぼげだ一軒の家さ泊めでもらうごどにしたなだど。
 お侍さまは、雑炊を御馳走になって、旅の疲れですぐに寝入ってしまったなだど。
 しばらぐして、お侍さまはお爺さんとお婆さんの話し声で目覚めだなだど。障子さ耳あでで聞いでみだらば、
「婆さんや半ごろしにすっか」
「いや爺さん、都のお侍さまだもの、お手打ちのほうがいいんでねえべが」
って聞こえできたなだど。お侍さまは、
「人の良さそうな夫婦だど思ったが、ヤマンバの夫婦だったか」
 お侍さまが、成敗しようかと様子をうかがってだうぢに、夜が明げでしまったなど。
 ほしたら台所のほうから、
「爺さん半ごろしの用意でぎだがら、お侍さま起ごして来てけろ」
って声が聞こえだなだど。お侍さまは意を決して刀を掴むと、自ら台所の障子を開げだんだど。
 ほしたら、お婆さんが
「あら、お侍さま、半ごろし出来ったがら食ってってけろ」
って、ぼた餅を出してきたなだど。お爺さんも
「おらんだの畑でこしゃったお手打ちも食ってってもらわんにぇべが」
って、美味そうなそばを出してきてけっちゃなだど。

 どーびんと。

山形弁訳

『半ごろしの御馳走』
 むかしむかし、あるお侍さまが峠を超えて米沢のあたりまで来たときに、日が落ちて暗くなってきたものだから、古ぼけた一軒の家に泊めてもらうことにしたのだと。
 お侍さまは、雑炊を御馳走になって、旅の疲れですぐに寝入ってしまったのだと。
 しばらくして、お侍さまはお爺さんとお婆さんの話し声で目覚めたのだと。障子に耳をあてて聞いてみたら、
「婆さんや半ごろしにするか」
「いや爺さん、都のお侍さまだから、お手打ちのほうがいいのではないかい」
って聞こえてきたのだと。お侍さまは、
「人の良さそうな夫婦だと思ったが、ヤマンバの夫婦だったか」
 お侍さまが、成敗しようかと様子をうかがっているうちに、夜が明けてしまったのだと。
 そしたら台所のほうから、
「爺さん半ごろしの用意が出来たから、お侍さまを起こしてきてくれませんか」
って声が聞こえたのだと。お侍さまは、意を決して刀を掴むと、自ら台所の障子を開けたんだと。
 そしたら、お婆さんが、
「あら、お侍さま、半ごろし出来ているから食べてってください」
って、ぼた餅をだしてきたんだと。お爺さんも、
「私たちの畑で作ったお手打ちも食べて行ってもらえませんか」
ってうまそうな蕎麦をだしてきてくれたんだと。

 どーびんと。