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『もぐらの婿さがし』

 むがあしむがし、土手さ住むもぐらの夫婦いだっけど。
 そごの娘は、ほんに器量のいい娘で、夫婦は、
「おらえの娘は、もぐらさなどやらんにぇ。世の中で一番偉い婿貰わんなねべ」
なて、いっつも相談しったけんだど。
 ほして、夫婦は、
「一番偉いなは、お空さまだべ。ほだって、あげにおっきなは世の中さねぇも」
て話して、お空さまさ、
「お空さま、お空さま、おらえの娘の婿になってけんにぇべが」
て聞いだなだど。ほしたらお空さま、
「いや、おれなどさっぱり偉ぐね。ほだって、晴れったどぎは良いげんど、雲来たらすぐに見えねぐなっぺ。ほだがらおれより偉いなは雲だべなぁ」
て言うのだっけど。
 ほだがら夫婦は、今度雲のどさ行って、
「雲さま、雲さま、おらえの娘の婿になってけんにぇべが。世の中でお前さまが一番偉いなだべ」
て言ったんだど。ほしたら、
「いや、おれなどさっぱり偉ぐね。ほだって、おれなどこうして、ふわふわしっただげだがら、風来たらすぐ吹き飛ばされんなだも」
て言うのだっけど。
 ほだがら今度さらに風のどさ行って、
「風さま、風さま、おらえの娘の婿になってけんにぇべが。世の中でお前さまが一番偉いなだべ」
て言ったんだど。ほしたら、
「いやいや、おれなどさっぱり偉ぐね。ほだって、おれなんぼ、ふーふーしたって、おめんだの土手はなんともねぇべ」
て言うのだっけど。
「なるほどなぁ、おらだ住んでだ土手はそがいに偉いものだったなが」
って、今度は土手さむがって、
「土手さま、土手さま、おらえの娘の婿になってけろ」
て言ったなだど。ほしたら土手は、
「なに言ってだなだ、おれなてさっぱり偉ぐね。風吹いだて飛ばねげんど、おら穴だらけだでら。ほだがら、もぐらさんの方が偉いなでねえが」
て言うんだっけど。
 もぐらの夫婦は、
「ははぁ、おらだが一番世の中で偉がったなが。ほしたら、最初っから、もぐらの婿貰えば良がったなが」
なて、結局、婿はもぐらさ落ち着いたんだど。

 どーびんと。

山形弁訳

『もぐらの婿さがし』
 昔むかし、土手に住むもぐらの夫婦がいたんだと。
 そこの娘は、本当に器量の良い娘で、夫婦は、
「我が家の娘は、もぐらになどやれない。世の中で一番偉い婿をもらわなきゃな」
なんて、いつも相談していたんだと。
 そして夫婦は、
「一番偉いのは、お空さまだろ。だって、あんなに大きなものは世の中にないからな」
て話しして、お空さまに、
「お空さま、お空さま、我が家の娘の婿になってくれませんか」
て聞いたのだと。そしたら、お空さま、
「いや、おれなどさっぱり偉くない。だって、晴れてる時は良いけれども、雲が来たらすぐに見えなくなるだろ。だから、おれより偉いのは雲だろうなぁ」
て言うのだっけど。
 だから夫婦は、今度は雲のところに行って、
「雲さま、雲さま、我が家の娘の婿になってくれませんか。世の中でお前さまが一番偉いのだろ」
て言ったんだと。そしたら、
「いや、おれなどさっぱり偉くない。だって、おれなど、こうして、ふわふわしているだけだから、風が来たらすぐに吹き飛ばされるのだもの」
て言うのだっけど。
 だから今度はさらに風のとこに行って、
「風さま、風さま、我が家の娘の婿になってくれませんか。世の中でお前さまが一番偉いのだろ」
て言ったのだと。そしたら、
「いやいや、おれなどさっぱり偉くない。だって、おれがどれだけ、ふーふーしても、お前らの土手は何ともないだろ」
て言うのだっけど。
「なるほどなあ。俺たちの住んでいる土手はそんなに偉いものだったのか」
って、今度は土手に向かって、
「土手さま、土手さま、我が家の娘の婿になってくれ」
て言ったのだと。そしたら土手は、
「なに言ってるんだ。おれなんてさっぱり偉くない。風吹いても飛ばないけれども、おれ穴だらけだよな。だから、もぐらさんの方が偉いのでないか」
て言うんだっけど。
 もぐらの夫婦は、
「ははぁ、俺たちが一番世の中で偉かったのか。そしたら、最初っから、もぐらの婿もらえば良かったのか」
なんて、結局、婿はもぐらに落ち着いたんだと。

どーびんと。