モバイルではテキスト版推奨です。flash版は横画面ならなんとか見れるかも。

『猫絵十兵衛』

 むがしむがし、猫絵十兵衛って猫の絵描ぐなじょんだ飴売りいだっけど。
 あるどぎ、十兵衛が飴売りして村々歩いでだったら、しゃあねうぢに妙な屋敷街さ入り込んだなだど。
 街の中はシーンとしてで、どさ行っても人いねがったんだども。妙だなぁって思いながら歩いでだったら、一人の姉さまが泣ぎながら十兵衛の前さ現れで、
「大っきなネズミが出で街の人は皆食わっちぇしまったなだ。どうが助けでもらわんにぇべが」
て言うなだっけど。
 それ聞いだ十兵衛は、筆ど紙を借りで強そうな猫の絵を描いで、街中の家々さ貼って歩いだなだど。
 ほして、夜も更けで来た頃、馬の子ほどもある大きなネズミが出できたなだど。隠っちぇ見ったった十兵衛は、猫の絵さ向がって、
「出ろ、出ろ出ろ」
って言ったなだど。そしたらば、絵の中の猫が次から次に出できてはぁ、ネズミさ飛びかがってったなだど。ほしてあっという間にネズミを食い殺してしまったなだど。
姉さまは大喜びで、
「ありがとうございます。どうか、わたしの婿になってください」
と頼んだなだど。十兵衛は、
「私には妻も子もある。ないのは金だげだ」
ど言ったなだど。ほして、お礼にたくさんの金貰ったなだど。
お金背負っての帰り道、十兵衛は重だくて重だくて、ちょっと休憩すっかど思って、はっと我に返ったなだど。背中の重い飴箱がのしかかってきて重だくて、居眠りしったなさ気付いだんだど。
 どーびんと。

山形弁訳

『猫絵十兵衛』
 昔むかし、猫絵十兵衛という猫の絵を描くのが上手な飴売りがいたんだと。
 あるとき、十兵衛が飴売りして村々を歩いていたら、知らないうちに妙な屋敷街に入り込んだのだと。
 街の中はシーンとしていて、どこに行っても人がいなかったのだと。妙だなあと思いながら歩いていたら、一人の姉さまが泣きながら十兵衛の前に現れて、
「大きなネズミが出て街の人は皆食われてしまった。どうか助けてもらえないでしょうか」
て言うのだっけど。
 それを聞いた十兵衛は、筆と紙を借りて強そうな猫の絵を描いて、街中の家々に貼って歩いたのだと。
 そして、夜も更けてきたころ、馬の子ほどもある大きなネズミが出てきたのだと。隠れて見ていた十兵衛は、猫の絵に向かって、
「出ろ、出ろ出ろ」
って言ったのだと。そしたら、絵の中の猫が次から次に出てきて、ネズミに飛びかかっていったのだと。そしてあっという間にネズミを食い殺してしまったのだと。
姉さまは大喜びで、
「ありがとうございます。どうか私の婿になってください」
と頼んだのだと。十兵衛は、
「私には妻も子もある。ないのは金だけだ」
と言ったのだと。そして、お礼にたくさんのお金を貰ったのだと。
お金を背負っての帰り道、十兵衛は重たくて重たくて、ちょっと休憩しようかと思ったところで、はっと我に返ったのだと。背中の重い飴箱がのしかかってきて重たくて、居眠りをしていたのに気付いたのだと。
 どーびんと。