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『鬼の面』

 むがぁしむがし、ある村の店さ奉公しった娘いだっけど。
 優しい娘で、いっつも村さ残してきた母親のごど思ってだったなだど。
 ほだがら、母親さ似だ顔のお面買って、そのお面見では、毎日母親の無事を祈ってだったんだど。
 ある日、同じ店の奉公人が悪戯で、娘のお面どご鬼の面さとっかえでしまったんだど。
 娘が、いっつもみでにお面さお祈りすっかど思ったら、母親のお面が鬼の面になってだったもんだがら、娘は、母親さ何かあったんでねえべがって思って、店がら暇もらって、わらわらって母親いだ村さ向がったなだど。
 村さ向がう途中で、日沈んではぁ、暗ぐなってがら峠さ差し掛がったどぎだったど、山賊がでできて、娘は捕まってしまったなだど。
 山賊らは、連れ帰った娘さ、すぐに
「飯炊げ」
って、飯炊ぎさせだごんだど。
 娘は、しょうがねぐ枯木集めで火つげだんだど。
 ほだげんど夜露で濡っちぇだった枯木なもんだがら、火おごすどぎに燻って煙たくて煙たくて。
 ほだがら、娘はたがってきた鬼の面かぶって、フーフー火吹いでだんだど。
 その姿は、火で照らっちぇ、本当に恐ろしい鬼みでに見えだもんだがら、たまげだ山賊らは、金銀宝物も放り出して逃げだしたんだど。
 娘は、その宝物たがって、母親のどさ帰ったごんだど。
 鬼の面になったなは悪戯だったもんだがら、母親さは何もねくて、たがってった宝物で母親ど二人幸せに暮らしたなだど。
 どーびんと。

山形弁訳

『鬼の面』
 むかしむかし、ある村のお店に奉公している娘がいたんだと。
 優しい娘で、いつも村に残してきた母親のことを思っていたのだと。
 だけら、母親に似ているお面を買って、そのお面見ては、毎日母親の無事を祈っていたんだと。
 ある日、同じ店の奉公人が悪戯で、娘のお面を鬼の面と取り替えてしまったんだと。
 娘がいつもみたいにお面にお祈りしようかと思ったら、母親のお面が鬼の面になっていたものだから、娘は、母親に何かあったんじゃないかと思って、店に暇をもらって母親がいた村に向かったのだと。
 村に向かう途中で、日が沈んではぁ、暗くなってから峠に差し掛かった時、山賊が出てきて、娘は捕まってしまったのだと。
 山賊らは、連れ帰った娘に、すぐに
「飯を炊け」
って、飯炊きさせたんだと。
 娘は、しょうがなく枯木を集めて火をつけたんだと。
 けれども夜露で濡れた枯木だったものだから、火をおこす時に燻って煙たくて煙たくて。
 だから、娘は持ってきた鬼の面をかぶって、フーフー火を吹いてたんだと。
 その姿は、火で照らされて、本当に恐ろしい鬼みたいに見えたものだから、びっくりした山賊達は、宝物も放り出して逃げだしたんだど。
 娘は、その宝物を持って、母親のところに帰ったのだと。
 鬼の面に変わってたのは、悪戯だったものだから、母親には何もなくて、持っていった宝物で、母親と二人、幸せに暮らしましたとさ。
 どーびんと。