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『石肥三年』

  むがしむがし
  あるどごさ働ぎ者で、気持ぢのいい与太郎っていう若者いだっけど。
  いっつも朝がら晩まで「ありがたいありがたい」って言ってだったもんだがら、村の人ぁ[ありがた与太郎]て呼んでだったんだど。
  その与太郎が家の近ぐの野原さ新しい畑二十刈りばり起こしたんだど。
  ある日、その畑見さ行ったら、狐が三、四匹、藪の中さ逃げでったんだと。なんだべど思って、畑見だら、畑の中さ石いっぱい入ってだったんだど。
  与太郎は木の切り株さ腰掛げで、なじょしたらいがんべなぁ、って思案したっけんだど。
そしたら藪ん中がら、畑さ、あげに石入れらっちぇも、ありがたいありがたいって言ってられんべがなって話しったな聞こえで来たんだど。
  与太郎は思いついで、
「ああ、ありがたいありがたい、肥やしねぇ畑だど思って、誰が親切でこげにいっぺ石入っちぇけっちゃ。石も三年経づど小便たれるって言うげんど、こげにいっぺの石だったら、なんぼいい畑になっかわがんねなぁ。ああ、ありがたいありがたい」
と大声で、狐さ聞がせるように言ってがら家さ帰ったんだど。
  次の朝、与太郎、また畑さ行ってみだらば、きんなの石皆ねぐなって、石の代わりに山草どが落葉どが肥やしになるものいっぺ入ってだったけど。
  どーびんと。

山形弁訳

『石肥三年』
  むがしむがし
  あるところに働き者で、気持ちのいい与太郎という若者がいたんだと。
  いつも朝から晩まで「ありがたいありがたい」って言ってたものだから、村の人は[ありがた与太郎]て呼んでたんだと。
  その与太郎が家の近くの野原に新しい畑二十刈りほど起こしたんだと。
  ある日、その畑を見に行ったら、狐が三、四匹、藪の中に逃げて行ったんだと。なんだろうと思って、畑を見たら、畑の中に石がたくさん入ってたんだと。
  与太郎は木の切り株に腰かけて、どうしたらいいだろう、って思案したんだと。
  そしたら藪の中から、畑にあんなに石入れられても、ありがたいありがたいって言っていられるだろうかって話をしているのが聞こえて来たんだと。
  与太郎は思いついて、
「ああ、ありがたいありがたい、肥やしのない畑だと思って、誰かが親切でこんなにたくさんの石を入れてくれた。石も三年経つと小便たれるって言うけれども、こんなにたくさんの石だったら、どんなにいい畑になるのか想像がつかないなぁ。ああ、ありがたいありがたい」
と大声で、狐に聞かせるように言ってから家に帰ったんだと。
  次の朝、与太郎がまた畑に行ったら、昨日の石が全部なくなって、石の代わりに山草や落葉などの肥やしになるものがたくさん入っていたんだと。どーびんと。





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